恐くて不安になっても、
その時、その場所から逃げない方がいいよ。
怖れっていうのはね、
恐いと感じている自分から逃げようとすればするほど、
なおさら恐さが膨らんで、逃げたいという衝動に駆られてしまうんだ。
そして、ますます不安になって、ついにはとうとう恐怖に支配されてしまうんだ。
だから、恐いと感じた時には焦らずに、そんな自分を静かに見つめるといいよ。
そうすると、恐いは怖れておののいている自分自身が作り出した、
幻影(まぼろし)だってことに気づくよ。
恐いは、怖れに囚われた自分自身が、逃げ惑う自分を追いかけている、
鬼ごっこだってことに気づくよ。
だから、怖くて不安になった時には、逃げても無駄なんだ。
そんな時は、慌てず、じっとそこに佇んで辺りを見回してみるといいよ。
何が見えるかい。
雑踏の中を先を急ぎ、小走りする見知らぬ人たち…。
たどたどしい足取りで、歩き始めたばかりの幼子の手を引く母の姿…。
何気ない会話の中に、信じ合うことを探し求める恋人同士…。
昨日起きた悲惨な出来事に、驚きの同意を求めて話しかけてくる友人…。
庭先でキャッチボールをしながら、無邪気な声を上げてはしゃぐこどもたち…。
そんな平凡でたわいのない、まちかどで繰り広げられる日常の様子。
それとも、
里山にとおる道を、横切るように流れてゆく小川のせせらぎ…。
木立の間を通り抜けてゆく、さわやかな風のささやき…。
優しいそよ風に吹かれて揺れている、可憐な野花のほほえみ…。
木々の中のどこからともなく聞こえてくる、元気な野鳥(ことり)のさえずり…。
樹木の隙間を透かして輝いている、まぶしい木漏れ日のきらめき…。
そんな全ての人を、ありのまま包んでくれる豊かな自然の営み。
ほら、一度目を閉じて、ゆっくりと息を胸の奥までおくりこんでごらん。
新しい恵みの力が湧いてくるよ。
そして気づくはずだよ。
今、この時、この場所に生かされている自分がいるってことに!
今、この時、この場所に自分を生かしてくださる方がいるってことに!
けっして、独りじゃないんだ。
いつも、自分とともにいてくださる方がいるんだ。
だから、逃げなくっていいんだ、逃げることなんかないんだ。
安心して、その時、その場所にいればいいんだ。
いつも自分と一緒にいてくださる方とともに…。
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