不登校現象の実態を踏まえた上で、学校教育現場における不登校生に対してどのような対応をしていくことが、福音的であるのだろうか考えてみる。
まず第一にカトリック学校は、不登校児童や生徒を積極的に受け入れているかどうかということを自らに問わなければならない。それは、中学校・高等学校・短大・大学等の入学段階で、前教育機関での不登校生の入学資格を認めているのかということである。具体的には欠席日数や欠課時数の多い児童・生徒に対する入学許可を、積極的に行っているのか消極的なのか、あるいは認めていないのかということである。このことは、「@不登校現象の発生原因と現状」で述べたように、不登校とはまさに教育現場の直中で起きている現象であって、当事者である不登校生自身やその家族は、不登校という苦しみから抜け出したいと望み、救いを求めている者であるとの認識ができてい問いかけである。そして、福音とは取りも直さず救いを求める者のためにあるのだから、教育現場における福音宣教をミッションとするカトリック学校は、当然のことながらその実践をしていかなければならない場なのであって、もし教育現場において救いを求めている者を無視し、助けを求める声に応えようとしないのであれば、それはイエス・キリストの教えに耳を閉ざし福音を述べ伝えるというカトリック学校の最も重要な使命を放棄することと同じなのである。
確かに不登校生との関わりには、その原因の複雑さや固有性から困難を伴うことが必至である。しかし、教育を通してキリストの福音を述べ伝えていくとの使命を持ったカトリック学校が、本来の活動の場である教育現場で、苦悩している不登校生やその父母に積極的に関わろうとしないのでは、福音宣教という使命を果たす機会を自ら投げ出して無関心でいるのと同じことなのである。よって、カトリック学校の不登校生に対する対処として福音的であるかどうかの第一の要件は、不登校生(児童および生徒)を積極的に受け入れているということなのである。
では、第二の要件として重要なことは、受け入れた不登校生およびその父母と学校(教職員)がどのような教育的関わりを、どのようにして持っているかということである。具体的には、不登校生とのその父母と関わるための教員やスクールカウンセラーなどの人的配置や組織の構築、また不登校生の学習活動支援や単位認定などの教務上の措置や規定、そして教室やカウンセリング室等の施設の用意である。
人的配置や組織の構築について、まずは不登校生とその父母に専門的に関わる人的配置が必要である。現代の不登校は、先にも述べたように社会的要素が複雑に絡み合い、長期的症状を呈するケースが多く、しかも多くの場合精神疾患を伴うか精神疾患につながっていく場合も少なくないため、不登校や教育カウンセリングおよび精神疾患についての専門知識を習得していなければ対応できないなど、十分な配慮が要求される。よって、不登校生およびその父母と対応していくためには、それ相当の専門知識や経験を積んだ学校カウンセラーを常駐させたり、精神科の専門医を校医として依頼すること、さらに不登校生を扱う担任(担当)教師が教育カウンセリングの資格を取得したり研修を受講するなど、一通りの専門的知識や資格を持った上で関わっていくことが不可欠である。
次に組織の構築については、不登校生およびその父母と学校が具体的にどのような関わりを、どのように形づくっていくかという組織マネジメントが必要である。不登校を改善していくことで重要なことは、学校教職員による個人単位の単独プレイで関わらないことが肝要である。もちろん不登校生に関わる個々の教職員の教育活動を否定するものではなく、あくまでも不登校とは他の児童・生徒以上に、その関わり方如何によっては不登校生個人の将来を大きく、しかも是か非かの二者択一をも迫られるほどのことにもつながりかねないという、特異性と繊細性を伴った事例ということからである。
よって、不登校生およびその父母と関わる教職員の構成としては、ホームルーム担任教師と学年主任そして学校カウンセラー等の学校組織側の人間と、教育相談や精神科医等の外部機関の人間がスタッフを形成し、組織的にかつ具体的行動計画や指針を明確にし一貫性を持って関わっていくことが求められよう。
さて、学校という教育機関である以上、学習活動がなされていなければその機能を果たしていることにはならない。不登校とは、学校に何らかの理由で登校できない状況をいうのだから、学校に登校できない期間の学習活動をどう支援するのかということが当然発生する。しかし、多くの学校教育機関では、不登校生に対する学習活動支援がなされていないのが現状ではないだろうか。そこで、不登校生の学習活動支援や単位認定などの教務上の措置や規定をどのようにしたらよいか考えてみよう。
まず、学習活動支援であるが、不登校生は登校できないか登校できても通常の授業や学校行事等の特別活動に参加することが難しい。そこで、どうしても登校できず授業に参加できなかった期間の学習活動を補填し支援していかなければならない。具体的には、登校できた日や長期休暇期間に補填授業を実施すること、自学自習が可能なテキストや課題を与えて提出させること、インターネットを通した授業を開設すること、そして通信教育を実施するか通信制課程の学校を併設することなどが考えられよう。いずれにせよ、学校に登校できなかった期間の授業補填を何らかの方法で可能な限り補填するということができる体制をつくることである。
では、評価・評定や単位認定などの教務上の措置や規定はどのようにしたらよいであろう。不登校の場合は、欠席日数や授業の欠課時数が増えてしまうことから、通常の規定を当てはめるとどうしても各教科の評価・評定や単位認定(高等学校の場合)を出す上で制約が出て来てしまう。そこで、不登校の場合は特別な規定を設けて評価・評定や単位認定をする必要性が出てくる。また、その前段階の措置として不登校認定という規定も必要となってこよう。以下、不登校認定と単位認定および評価評定における規定の具体例を挙げておく。
1.以下の条件を満たしたものを不登校と認定する
@精神科や心療内科などの医療機関もしくは教育相談機関から不登校であると診断または認定された。
A心意的・精神的理由で長期欠席が続き、本人および父母が精神科や心療内科などの医療機関もしくは教育相談機関等の専門機関に通うことを決めた。
B不登校生本人およびその父母が何らかの理由で専門機関での治療ができず、学校長が特別に不登校と認定した。
2.不登校認定された場合の出席日数および欠課時数について(高等学校の場合の単位認定)
@出席日数は登校すべき日数の二分の一を目安とする。
A授業の欠課時数は、授業実施時数の二分の一を目安とする。
B授業の出席日数は、補填授業や課題授業、およびインターネット授業など通常授業を代替えすると認められるものについては積極的に加算することとする。
3.評価・評定について
@定期試験を受験していない場合も、補填授業や課題提出など学習効果があったと判断される材料で評価する。
A評価の基準は、原則として一般生徒の基準を適用するが、なるべく生徒の有利に働くよう配慮する。
B評定の基準は、原則として一般生徒の基準を参考にし、なるべく生徒の有利に働くよう配慮する。
最後に施設としては、不登校生が、学校に登校しやすい環境を整えておくということが不可欠である。そのため最低限、カウンセリング室と不登校生専用の教室が設置されていることである。カウンセリング室は、不登校生とプライバシーに関わる相談や会話をするのには不可欠であり、外部と遮断されプライバシーを守られた環境は、個人に安心感を与えより親密なリレーションをはかることができるようになるはずである。また、不登校生専用の教室は、登校訓練と授業参加訓練のためには不可欠である。不登校の場合、一般の教室にはすぐに馴染めない場合が多く、一般生徒と共通の日課(時間割や教室環境)で行動できない不登校生に、学校環境に慣れるために一般の教室とは一線を画し規制を緩和した環境を提供することで、段階的に学校生活に馴染ませ登校意欲と授業参加意志を呼び起こさせながら、不登校生に学校生活に対する安心感と希望を与えることから始めることが重要である。
以上、不登校生に対する福音的対処について述べてきたが、不登校生とその父母と関わる上で最も重要なことは、希望を与え続けることである。つまり、現段階では不登校であっても、学習活動は可能であり、いずれ不登校は治癒し通常の学校生活ができるようになって、その先の人生も限りなく広がっているのだという希望を持たせることが、不登校生本人および父母に対しての福音となるはずである。カトリック学校は、不登校のような教育現場で問題を抱え苦しむ児童・生徒やその家族に福音を述べ伝えるという明確な使命を持った学校であるのだから、できる限りの最大限の教育活動の提供を厭わず、イエス・キリストの教えに付き従い常に福音述べ伝える教育活動に専念するよう、弛まない努力が必要なのである。
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