総合的な学習の位置づけは、自ら学び自ら考えるという力を身に付けさせるというものであるが、現代の子ども達に不足または欠如していると言われる要素を、「生きる力」とか「人間力」等の表現で求められているところのものである。「生きる力」・「人間力」とは、福音宣教の観点から考えると、実に重要なことではないかと考えられる。なぜならば、「福音」とはそれ自体が、人間がいかにあり、いかに生きるかということに繋がり、その中で神が人間に望む姿としての恵みの良き知らせであるからである。よって総合的な学習が、「生きる力」や「人間力」を身に付けることを目的とするならば、そこには福音というメッセージを十二分に生かすことができる教育活動となり得ると言える。
さて、総合的な学習は、現行の指導要領によると次のように定められている。
1.学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において、生徒に生きる力を育むことを目指し、創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する中で、
自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り、個性を生かす教育の充実に努めなければならない。
2.学校における道徳教育は、生徒が自己探求と自己実現に努め国家・社会の一員としての自覚に基づき行為しうる発達段階にあることを考慮し、
人間としての在り方生き方に関する教育を学校の教育活動を通じて行うことにより、その充実を図るものとし、各教科に属する科目、特別活動
及び総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じて適切な指導を行わなければならない。
3.学校においては、地域や学校の実態等に応じて、就業やボランティアに関わる体験的な学習の指導を適切に行うようにし、勤労の尊さや創造す
ることの喜びを体験させ、望ましい勤労観、職業観の育成や社会奉仕の精神の涵養に資するものとする。
また、学習活動においては、下記のように規定されている。
1. 総合的学習の時間においては、各学校は、地域や学校、生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習な
ど創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。
2.総合的な学習の時間においては、次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1)自ら課題を見付け、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができる
ようにすること。
3.各学校においては、上記2に示すねらいを踏まえ、地域や学校の特色、生徒の特性に応じ、例えば、次のような学習活動などを行うものとする。
(1)国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学
習活動。
(2)生徒が興味・関心、進路等に応じて設定した課題について、知識や技能の深化、総合化を図る学習活動。
(3)自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動。
4.各学校における総合的な学習の時間の名称については、各学校において適切に定めるものとする。
5.総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(1)自然体験やボランティア活動、就業体験などの社会体験、観察・実験・実習、調査・研究、発表や討議、ものづくりや生産活動など体験的な学
習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2)グループ学習や個人研究などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制、地域の教材や
学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
では、これらのことを踏まえながらカトリック学校として、福音的宣教という観点から生きる力の要素とは何かを考えると以下のようなことが言えよう。
「生きる力」とは、神から授かった固有の命と能力及び使命を自覚しながら、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力のことである。また、自己の人生を生き抜くための学び方やものの考え方を身につけ、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度と自己のあり方生き方を考えることができる力である。さらに、宗教心と自尊心を持って、他者のために生きようとする隣人愛の精神である。
次に福音的観点から総合的な学習の要素を考えてみると次のようなことがらが考えられる。
1.キリストの教えに基づいた「愛の精神」を身に付け、現代を自立して生きる人間の育成という観点において
(1)人間らしい豊かな心を養うこと。
(2)より良き父母となる資質を育むこと。
(3)一人ひとりに与えられた固有の命や特性および才能を生かし、自己の使命を果たすこと。
(4)他を思いやり、自らを見つめ直すボランティア精神を身に付けること。
(5)世界に開かれた国際的センスを学ぶこと。
2.キリストの教えに基づいた「生きる力」という観点において
(1)自分に与えられた可能性と使命に目覚め、知的能力、学習能力を磨く努力をすること。
(2)キリスト教の教えに基づいた宗教性に根ざしている心と意識を育てること。
(3)自己の成長につとめながら、他者と共に生きる姿勢を育てること。
では、これらのことを前提に総合的な学習の具体的内容を考えてみると以下のような項目を挙げることができるであろう。キリスト教的人間観に基づいた実践力として、以下のようなものが考えられるであろう。
(1)人間学…恋愛・結婚・家庭・労働・出産・育児、性、ジェンダー論、礼儀・礼法 、法律、進路選択
(2)国際理解…自国文化と歴史の理解、国際情勢、戦争と平和、南北 問題、 国際交流と国際貢献、グローバル経済、ボーダーレス、宗教、 理解と他国
文化
(3)情報…ITの習得、情報の平等性と差別、情報倫理、ヘイトサイトの見分け方などネット関連の正しい利用法
(4)環境…資源エネルギー問題、人口問題、地球環境の問題(砂 漠化・温暖化・オゾン層の破壊・酸性雨・熱帯林破壊・ 生物多様性の現象・海洋汚染・有
害廃棄物の越境移動)
(5)生命…生と死、生命倫理、脳死、臓器移植、臓器売買、尊厳死安楽死、リヴィングウィル、ホスピス、バイオテクノロジー、人権問題
(6)福祉・健康…高齢化・老齢化社会の問題、ノーマライゼーション、健康な体と精神の育成
(7)ボランティア活動…隣人愛とボランティア精神、社会福祉施設研究、国連・NGO研究、災害及び難民などの緊急援助対策、地域美化
(8)体験学習…自然体験や職場訪問などの社会体験、芸術鑑賞、観察・実験・実習、調査・研究・ものづくりや生産活動、修学旅行
(9)討議と研究発表…現代の呈する諸問題を中心とするテーマ学習(自分たちでテーマを設定し、研究して発表する。)
(10)統合力… 総合的な学習が知識や技術の習得のみに留まることなく、キリスト教的価値観のもとに正しい判断力を身につけるための価値観の形成
以上のようなことがらが考えられるが、私たちが暮らすこの社会は日々変化し様々な問題を生み出しかつ複雑化しているので、私たち教育者は千変万化する社会に対応できる力を学習者に養わせるために、常に新たな課題を提示して対応できる柔軟性を身に付ける必要性がある。このような観点からもまさに総合的な学習とは、現代を生き抜くための「生きる力」・「人間力」を学びながら現代に必要な福音を注ぐことのできる格好の教科・学習活動であると結論づけられる。
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