W.カトリック学校における学校運営
1.教育活動における能動的教育活動と受動的教育活動
学校における教育活動は、学習活動と特別活動の二つに大別できるが、教育活動全体を学校に主体を置くか生徒およびその父母を主体に置くかで、能動的教育活動と受動的教育活動に分類できるであろう。
能動的教育活動は、学校の校訓やプロファイル等の教育方針を元に生徒を教育するもので、それに対して受動的教育活動とは、生徒やその父母および外郭団体等の要望に応えるかたちで行うものである。
では、カトリック学校における能動的教育活動と受動的教育活動の最も重要な要件とは何であろうか。能動的教育活動においての第一には、カトリック学校の本来的目的・存在価値である教育活動をとおしての福音宣教であると言える。この観点においては、日々の教育活動全般の中においての福音的宗教指導ということが出来るであろう。そして、第二には、受動的教育活動における生徒および父母のニーズを教育活動に反映させるということである。
この二つの観点において、論述する。
(1)福音的宗教指導
福音的宗教指導は、宗教科のみならずすべての教科指導をはじめ、特別活動を含めた学校教育活動のすべての場面において行われなければならない。そして、それらの指導は、断片的にではなく連続的にかつ一貫性と統一性をもって、教育活動全体から総括的に生徒に伝わるようになることが理想的であると言える。
福音的宗教指導が、断片的にではなく連続的にかつ一貫性と統一性をもって、教育活動全体から総括的に生徒に伝わるようになることとは、宗教科目の聖書等の授業や宗教行事の時間のみで、福音的宗教指導を行うというのではなく、その他の教科指導の中でも生徒会活動や部活動等の特別活動の中でも、それぞれの範疇において指導するということであり、その指導の在り方も、個々の教員による個人的主観や独断・偏見によるものではなく、キリスト教の原理ないしは教会のカテキズムに乗っ取った体系的で普遍的なものでなければならないということである。そして、そのような指導は一時的、一過的なものに終わることなく連続的・恒常的に日々の学校教育活動の中で日常的に行われていかなければならない。
そもそもカトリック学校の存在意義は、イエス・キリストの福音宣教(福音の喜びを多くの人々に述べ伝えること。)にあるのだから、学校教育の全ての場面において福音に基づいた教育活動が行われなければならい。それは取りも直さず、教育を施す側である教員がいかにキリストの福音を学び理解した上で、教育活動に具現化しているのかということに他ならない。よって、教員が信徒であろうとなかろうと福音の理解を深め、それを日々の教育活動に生かしていこうとする姿勢を持つことが不可欠となる。この点においても前項で提言した「教区におけるカトリック学校教員研修養成所設立」がに望まれるわけである。
教育活動にとって、教員という人材こそが最大の要であることはいうまでもない。それは、「人間は人間によって教育され成長していく」という観点から、教育の対象となる園児・児童・生徒・学生が「人間」であって、教育を施す教師もまた「人間」であるところに教育の教育たる所以があるのであって、そこに「人間」たる教師がいかに「人間を理解」し、「人間の成長」に何が必要で何をすればよいのかが問われるということになる。
福音的宗教指導とは、容易に実行・完成させられるものではないかも知れないが、毎日の教育活動に関わる教職員が、是が非でも学び、理解し、体得してそれぞれの教育活動に具現化していかなければならないことである。そして、これがカトリック学校としての要であり、自校が本来的で真にカトリック学校としての存在意義を打ち出し、カトリック学校として存続していけるかどうかの境目となる要件であるのである。
今後日本のカトリック学校は、神父や修道会員及び信徒の減少と少子化の進行に伴い、多かれ少なかれ学校運営上それらの影響を受けざるを得なくなっていく。今一度、「今」という「時のしるし」を読み、現在及び将来にわたってカトリック学校に何が必要とされ求められているのかを早急に問い直さなければならない。
(2)生徒および父母のニーズの反映
私立学校の生徒及び父母の学校に対する主なニーズはいくつかの点にまとめることができる。そして、これらのニーズに応えることが、学校運営上は受動的教育活動となり、更には私立学校にとっては学校マネージメント上の非常に重要な責務ともなり、その実現の有無が学校評価を大きく左右することにもつながるわけである。
では、その主なニーズとはどのようなものであるかというと、一つに学習面に関連すること、二つめには、教職員に関連すること、三つ目には、生活面に関連すること、四つ目には、施設面に関連すること、そして五つ目には教育方針に関連することに大別される。なお、これらの5分野を更に分類すると以下の7項目に分けることができる。
@大学等への進学や就職等の進路達成
(この点に関しては、なるべく偏差値の高い大学や一流企業であることが望まれる。)
A進路達成のための充実かつきめ細やかな学習指導や進路指導ならびに課外講習
(この点に関しては、一人ひとりを重視した個別指導が望まれる。)
B指導力に優れた教師陣と充実した教育施設をもとにした安心できる教育環境
(教師の指導力には、教科や部活動および担任指導が含まれる。)
C個人を尊重する規律ある生徒指導
(この点に関しては、校則や制服等、毎日の学校生活およびアルバイト規定など校外生活に関連するものが含まれる。)
D特別活動に対する期待
(この点に関しては、高体連や高文連等の大会で上位入賞を果たすことが望まれる。)
E授業料の軽減
(この点に関しては、公立高校の授業料との比較からくる割高感が問題となる。)
F一人ひとりの人権や個性を尊重した教育方針
(この点に関しては、学校教育全般に渡って個の尊重を最重要視することが望まれる。)
では、これらの生徒及び父母からのニーズを実現させる能動的教育活動を、成功に導くためには何が求められるであろうか。
単刀直入に言ってしまえば、「結果を出すこと」の一言に尽きるのであろうが、(1)で前述したが、教育活動の成果とは、断片的にではなく連続的にかつ一貫性と統一性をもって、教育活動全体から総括的に実現させることが理想的であるから、ただ単に一過的に結果を出せばよいというわけではなく、特にカトリック学校においては福音的宗教指導である能動的教育活動との兼ね合いも重視しなければならない。とは言っても、学校評価が実施されていく今日において、教育活動においても結果を出すことは最重要課題であるとも言える。
よって、自校におけるマーケットリサーチや的確な現状把握をもとに、より現実的な学校マネージメントをしていかなければならない。それは、前述した5分野7項目に関する具体的な行動計画をそれぞれの関連部署が策定し、それを学校運営委員会等の中核組織が統轄し実施していくことに他ならない。ここで、今までの学校運営上なかったマネージメント部門の必要性がどうしても生まれてくる。これからの学校評価やその時々のニーズに即した学校経営を実現し、少子化社会の中、私立学校がその使命や伝統および特色を維持しながら生き残りを図っていくためには、学校マネージメントは欠かせないものとなっている。その機能を果たすべき組織や人材を早期に組織・登用して具体的策定案を作成し、それらを学校の中核である教務・生徒指導・進路指導の三指導部門や入試・広報等の必要部署に的確に指示・監督しながら、学校組織全体が一丸となって行動して「結果を出す」ことを連続的にかつ一貫性と統一性をもって実現していくことである。
そのためにも、学校長の明確なリーダーシップと学校マネージメント上の経営手腕による各部署における長の連携・団結そして教職員全体の統率が必要である。それが、学校組織全体の一致をもたらすエネルギーとなり、ひいてはカトリック学校である自校を本来の福音的価値観のもとに存立する学校として、将来にわたって永く存続させることとなるであろう。
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