(3)カトリック学校のアイデンティティの確立
カトリック学校のアイデンティティの確立は、次の要素の実現によって成り立つ。
@「教育活動の根幹を成す教師力」
A「学習者に対す福音的人間観に基づいた全人教育と宣教司牧」
B「学習者の父母に対する福音宣教」
C「学校(内部)社会および校外(外部)社会(地域社会に対する働きかけ))」
「@教育活動の根幹を成す教師力」について言えば、カトリック学校のアイデンティティが「福音宣教」と「司牧」にあるとしても、それを実際の教育現場で実践し具現化するのは、学習者である幼児・児童・生徒及び学生と日々関わりを持つ教師一人ひとりであり、またそれら一人ひとりの教師が意思統一された教師集団であって、それが「教師力」である。
カトリック学校に奉職する教師一人ひとりによる「福音宣教」と「司牧」は、信者・未信者に関わらず、カトリック学校の教員としての一定の研修と経験および学習が必要であることは言うまでもない。カトリック信徒であるからといって受洗しただけで、小教区との関わりやミサに与ること無しには、宣教司牧の実践は不可能に近いし、未信者であるからといって、イエス・キリストの福音が理解できないわけでもなければ、信仰を伝えることは出来ないまでも知識としての伝達が不可能なわけでもない。つまり、「福音宣教」と「司牧」と言うことに関しては、信者・未信者の如何に関わることではないと言える。更に自校の建学の精神に至っては、そこにいる教職員の全てが信者・未信者に関わりなく、その精神を十二分に学び受け継いでいかなければならないものであるから、これもまた信者・未信者の如何に関わることではないのである。
そして、また今日のように創立以来「宣教司牧」というカトリック学校としての本来的目的を担ってきた司祭などの聖職者や修道者の数が激減する中、カトリック学校に奉職する全ての教職員が建学の精神と同様に「宣教司牧」というカトリック学校の本来的目的を受け入れ、全うしていかなければならないことを決意しなければならないのではないだろうか。
この「宣教司牧」と「建学の精神」をいかに教職員一人ひとりが担い、教師集団として一致団結して受け継ぐかが、今後のカトリック学校としての存続を左右するカトリック学校としての「教師力」と繋がるものになるに違いない。
「A学習者に対す福音的人間観に基づいた全人教育と宣教司牧」ついては、カトリック学校の教育理念は「全人教育」という一語に集約できる。「全人教育」とは、人間の根本的存在を「福音的人間観」から捉え、人間個人の生命や能力を神から与えられた固有のものであって、一方向に偏った教育により人格を歪曲させることなく、神から与えられた固有の能力に気づくよう導き、それを伸長させ、更には神から与えられた固有の使命に気づかせ、それを全うすることで本来的な自己実現が出来るようにと、学習者を導き育てることである。
また、「宣教司牧」については、前述のとおりカトリック学校の構成員である幼児・児童・生徒及び学生の一人ひとりが、学校共同体の一員であることを基盤に、善き牧者であるイエス=キリストの教えを学習者に述べ伝え、それに従って教会共同体の成員としても導くことであり、これらのことが学習活動、特別活動及び課外活動という学校教育の全ての部面から実践されるよう努めていかなければならない。
「B学習者の父母に対する福音宣教」についても学習者の保護者は、学校共同体の一員であるから、学習者と同様にイエス=キリストの「福音」を述べ伝え、それに従って教会共同体の成員として招かれていることを知らせなければならない。特に、幼稚園・小学校・中学校・高等学校のカトリック学校に学ぶ学習者にとって、保護者は未だ重要な導き手であるから「福音的人間観」に根ざした教育活動に対する理解と協力を十分に求め、学習者にとって善き牧者となるよう努めてもらうための指導が必要である。
「C学校(内部)社会および校外(外部)社会(地域社会に対する働きかけ))」については、カトリック学校も教会共同体の一翼であるとの認識に立っての考え方である。そもそも教会共同体とは、イエス=キリストのもとに集められた成員による共同体であるから、カトリック学校もまた教会共同体であると言える。よって、教会共同体の本来的目的は、「福音宣教」と「司牧」であるから、カトリック学校も、学校内部の教育活動を通して「宣教司牧」をすることに留まらず、校外にある地域社会等の外部社会に対する「宣教司牧」という働きかけを、教育活動を通して実践することが求められるとともに、カトリック学校にとっての重要な要素となる。これは、まさにキリストの教えの中核を成す「隣人愛」の実践に他ならないであろう。そして、これらのことは教育活動の中においては、「他者のために、自己を犠牲にし奉仕する。」というボランティア活動によって実現できると言えよう。
以上、カトリック学校のアイデンティティの確立について四つの要素を挙げたが、これらはあくまでもカトリック学校としての独自性であって、これ以外にカトリック学校も学校法人としての教育機関であるのだから、一般的な学校としての要素を、余すところなく満たしておかなければならないことは言うまでもない。
|