楽器のトリビア

 楽器には、古今東西数えられないほど種類がありますので、ここでは、アンサンブルシュシュで用いられる楽器や、古楽器を中心に書いてみたいと思います。まず、分類すると、だいたいこんな感じになります。

(1)弦楽器
(1-a)擦弦楽器・・・ヴァイオリン族(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)、ヴィオル(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

ヴァイオリン族
フレットがない
弦は4本が基本
調弦は5度間隔
f字孔を持つ
音量は大きく派手
裏板は丸みを帯びる
いかり肩
顎で挟んで弾く
(チェロを除く)
ヴィオール族
フレットがある
弦は6本が基本
調弦は4度間隔
c字孔を持つ
音量は小さく優雅
裏板は平ら
なで肩
脚に挟んで弾く
(全てのヴィオル)
 弓で弦をこすって音を出すグループで、ヴァイオリン族とヴィオール族に分けることができます。「ヴィオル、ヴィオラ」とは、広義で全ての擦弦楽器をさします。
 ヴァイオリン族とヴィオル族の違いは、まず指板にあります。ヴァイオリン族の指板はツルツルですが、ヴィオル族にはフレットがあります。またヴィオル族には、裏板が平ら、4度調弦などの特徴がありますが、これらの特徴は現在のギターと同じです。つまりこれは、ヴィオルの祖先がギターと共通の祖先を持つことを示唆しています。

ヴァイオリンはヴィオルより優れた楽器?
 ヴァイオリンは、ヴィオルに比べてはるかに歴史の新しい楽器です。そのため、「ヴァイオリンはヴィオルを進化させたものだから、ヴァイオリンの方が優れている」とか「ヴァイオリンはヴィオルの改良型」という人がいますが、これは間違っています。ヴァイオリンが発明された当初、大音量と派手な音色を特徴とするヴァイオリンは、「卑しい楽器」としてもっぱら庶民の楽器とされ、宮廷などではヴィオルが用いられていました。しかし、バロック期に入ってオペラや大編成のオーケストラが好まれるようになると、次第に音量のあるヴァイオリンが優位となっていったわけです。つまり、その時代や状況において求められる音が異なるわけで、ヴィオルは宮廷音楽のような雅な音楽を演奏するのに秀でた楽器で、ヴァイオリンはオーケストラ曲のような大音量で演奏するのに秀でた楽器ということで、「どちらが優れている」というものではありません。たとえば、クラシックギターとエレキギターを考えてみてください。エレキギターはクラシックギターを「発達」させたものですが、かといって「エレキギターはクラシックギターよりも優れている」と言えるでしょうか?
※楽器は何故改良(改造)されるか


(1-b)撥弦楽器・・・ギター、リュート、ハープ
 指やプレクトラムで弦を弾くグループで、ギターがその代表といえるでしょう。現在では、オーケストラで使用される撥弦楽器は音量の問題でハープだけですが、バロック時代まではギターやリュートも通奏低音として使用されていました。むしろハープよりもリュートの方が一般的だったようで、オペラなど大編成の音楽にも使用するために大型化し、2メートルを超えるようなリュートもありました。ギターはスペイン周辺でのみ特異的に発展し、ルネッサンスの頃からそれほど変わらない姿で今日まで来ています。「リュートが進化してギターになった」という人がいますが、これは間違っています。ギターの祖先はルネッサンスギターやルネッサンス期の「ビウエラ」というスペイン特有の楽器で、ギター(ビウエラ)とリュートは共存(住み分け)していたわけです。ビウエラよりも前の時代はどうかというと、実際のところ分かりません。おそらくどちらも、アラビアの「ウード」という楽器(の祖先?)を共通の祖先として持っていると思われます(ちなみに日本の琵琶も、このウードが祖先です)。

?? →  エジプトのギター → ルネッサンスギター、ビウエラ → バロックギター → 現在のギター
→  アラビアのウード → リュート

ハープギターの1種
ハープシターン
Anthony Baines著 Europian and American Musical instrumentsより引用
ギターとハープは兄弟?
 
今日の姿からすると、ギターとハープは「撥弦楽器」という以外は共通点がないように思われます。しかし、その祖先となった楽器をたどっていくと、だんだん区別がつかなくなっていきます。リラギターやハープギターのなかには、ハープと見分けがつきにくいものもありますし、「ウイーンの森の物語」で使用されることでも知られる「チター」も、ちょっと見るとハープかギターか区別がつきません。ちなみに、ハープとリュートのあいの子のような「ハープリュート」、ハープとイングリッシュギターのあいの子のような「ハープシターン」というのもあります。

(2)鍵盤楽器・・・ ピアノ、チェンバロ(ハープシコード)、オルガン
 鍵盤楽器とは、鍵盤のある楽器のことですが、この名称は実際のところ音の出る仕組みを表していません。発音の仕組みから言うと、ピアノは打楽器、チェンバロは撥弦楽器、オルガンは管楽器ということになります。ですから、オルガンとチェンバロは全く異なる楽器ですし、ピアノとチェンバロも見かけほど似た楽器とは言えない訳です。

ピアノとチェンバロ
 
ピアノは「チェンバロを改良した楽器」と言われます。しかし、これもヴィオルとヴァイオリンの議論同様、ちょっと語弊があります。確かにピアノはチェンバロをもとに発明された楽器ですが、これも発明された後、しばらくの間は共存していました。というよりむしろ、ピアノには見向きもされなかったという方が正しいかもしれません。じつはJ.S.バッハの時代、すでにピアノは発明されていたのです(1700年頃に、イタリアのクリストフォリがピアノを発明したと言われている)。しかしバッハはピアノには見向きもせず、結局ほとんどピアノ曲は残しませんでした。そのかわりに、新型の、リュートの音がするチェンバロ(ラウテンベルク)というものを発明し、曲も残しています。バッハにとってはピアノよりもチェンバロの方が優れた楽器だったわけです。

ピアノとギター
 これは全く違う楽器ではないか、と思われるかもしれませんが、実は共通点があります。ギターの親戚楽器に「チター」がありますが、これをバチで叩いて演奏するのが「ハンマーダルシマー」(弓で演奏する弓奏ダルシマーもある)で、さらに「鍵盤付きのハンマーダルシマーというのも存在したようです。ハンマーダルシマーはチェンバロの祖先とも言えるものですが、「バチで叩いて」という奏法は、チェンバロよりもむしろピアノの発想で、クリストフォリがピアノを発明した時にもこれを参考にしたに違いありません。

チェンバロとリュート
 チェンバロが発明される以前、リュートが最も主要な伴奏楽器の一つでした。しかし、早いパッセージや複雑な和音を演奏するには、鍵盤楽器の方が自由度が高いのは明らかです。そこで、リュートに鍵盤をつけたものがチェンバロとなりました。実際にチェンバロの中をのぞいてみると、チェンバロがリュートの発想で作られているのがよく分かります。また、ラモーが現れるまでのチェンバロ音楽初期の時代、チェンバロのために書かれた曲は、リュートを模倣したものでした。

(3)管楽器・・・フルート、リコーダー
 フルートというと、横向きに構える、あの楽器を思い浮かべる人がほとんどです。ところが、バロック時代には、フルートと言えばリコーダーをさしていました。横向きの楽器を指定する場合は、わざわざ「フラウト・トラヴェルソ」(横型フルート)と言っていたのです。つまり、バロック期以前の「フルートソナタ」は「リコーダーソナタ」である可能性が高いわけです。時代が進み、「トラヴェルソ」が普及してくると、リコーダーにはトラヴェルソと区別するために、「フラウト・ドルチェ」または「ブロックフレーテ」と書かれることが多くなってきます。ちなみに、この頃のフルート(トラヴェルソ)は、現在のフルートとは違い、木や象牙で出来ていました。

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