バイケイソウ考

その6 バイケイソウは自家不和合の虫媒花
     

 「バイケイソウ考 その5」に、「バイケイソウが自家和合性なのかは不明である」ということを記しましたが、このことについて、北海道大学の大原研究室の加藤らが2009年に論文を出していました。

YUUKI KATO, KIWAKO ARAKI and MASASHI OHARA
Breeding system and floral visitors of Veratrum album subsp. oxysepalum (Melanthiaceae)
Plant Species Biology (2009) 24:42?46.

doi: 10.1111/j.1442-1984.2009.00231.x

 この論文では、北海道恵庭に自生するバイケイソウ集団をを使って、1)授粉なし(除雄して袋がけ)、2)袋がけ、3)除雄、4)人工自花授粉、5)同一個体の花粉による人工隣花授粉、6)別個体だが同じジェネットの花粉による人工隣花授粉、7)人工他花授粉、8)無処理(対照)の着果率と結実率を比較しています。その結果、授粉なし、袋がけ、人工自花授粉ではまったく着果・結実が見られず、隣花授粉ではごく僅かに稔実(実験上のミスか?)し、人工他花授粉が最も高い着果・結実率を示しました。

 また、本論文ではバイケイソウの訪花昆虫の調査も行なっており、鞘翅目、双翅目に属する多くの種が訪花すること、最も多く訪花したのは膜翅目のシワクシケアリ(Myrmica kotokui Forel)であったことを報告しています。

 この論文によって、バイケイソウは自家不和合性を示す虫媒花であることが示されました。私が箱根のバイケイソウの花を観察している際にも双翅目昆虫やアリが多く訪花しているのを目撃しています。しかも双翅目昆虫は背中に多くの花粉をつけていることがあり、主要なポリネーターとして機能していることが想像されます。

 本論文での調査で、バイケイソウは同一個体や同じジェネットの別個体による隣花授粉では(ほとんど)稔実しないことが報告されていますが、交配させた花粉が両性花由来のものなのか雄花のものなのかは記載されていません。バイケイソウのような雄花両性花同株植物とは異なりますが、フランス リール科学技術大学のSaumitou-Laprade らは、地中海沿岸に分布するモクセイ科の雄性両性異株(androdioecy)植物Phillyrea angustifolia の自家不和合性のメカニズムについて調査し、両性花株に2つのグループが存在しグループ内では自家不和合であること、雄花株の花粉はどちらのグループの両性花株も稔実させることを報告しています。このことから、自家不和合を示す遺伝子は雌ずい形成を制御する遺伝子と関連があるのではないかと考察しています。バイケイソウの雄花・両性花形成を左右する機構が何であるのかは不明であり、単に個体の栄養状態によって決まっているだけかもしれませんが、雄花由来の花粉で同一個体両性花が稔実するかどうか、興味がもたれます。


参考文献

A Self-Incompatibility System Explains High Male Frequencies in an Androdioecious Plant
Saumitou-Laprade et al. Science (2010) 327:1648-1650
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DOI: 10.1126/science.1186687

Posted 20 April 2010

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