2009年の箱根のバイケイソウ観察では、個体の成長量と雄花/両性花比および稔実率との関係について調査しました(下図参照)。山道の周辺で幾つかの開花個体に注目してその後の経過を観察をしていたのですが、開花から最終的な稔実まで調査できたのは5個体だけでした。これらは山道の脇の5m四方程度の範囲内の林床に生えていたものです。各個体はある程度の距離をおいて生えていましたので、それぞれの個体は同一の親から生じた子ラメットの後代ではないと考えられます。しかし、もっと大昔となると何とも言えませんので、これらの個体は同じジェネットかもしれません。草丈と葉数の間には正の相関が見られ、草丈はその個体の成長能力、昨年までの養分蓄積量(資源量)を表していると考えられます。草丈と花数の間には特に相関は見られず、どの個体も180前後の花を付けていました。しかし、雄花/両性花比は草丈のと間に相関が見られ、草丈の高い個体は両性花が多い(雄花が少ない)傾向にありました。したがって、調査した群落では花数に差が生じるほど個体間の資源量の差はないものの、僅かな資源量の差によって雄花/両性花比に差異が生じ、資源量の多い個体ほど両性花の割合が多いと思われます。両性花のうち、稔実したさく果の数は草丈とやや弱い正の相関が見られましたが、稔実率(稔実さく果/両性花)は草丈と負の相関が見られました。すなわち、資源量の少ない個体は付ける両性花の数は少ないのですが、稔実率が高いために稔実さく果数にすると資源量の多い個体との差はそれほど大きくはならないということになります。北京師範大学のZhang
らのグループは中国に分布するシュロソウ属植物Veratrum nigrum を用いて雄花/両性花の資源配分と生殖戦略に関して調査し、資源量の多い個体ほど雄花の比率が高く、登塾期の着果・種子数も多いことを報告しています(バイケイソウ考 その4 参照)。今回の結果は、この報告とは異なり、資源量の多い個体ほど両性花を多くつけていました。しかし、雄花の多い個体ほどさく果の稔実率が高かった点は先の報告と一致しています。5個体だけの、しかも本年度だけの結果で結論を出すことは出来ませんし、バイケイソウは自家和合性なのか、両性花と雄花で開花期がどのくらいずれているのかなど、さらに調査を進めなければならないことは多くあります。バイケイソウの資源量と雄花/両性花比、稔実率との関係については今後も調査を続けていく予定です。
参考文献
Wan-Jin Liao, Qing-Fa Song and Da-Yong Zhang
Pollen and Resource Limitation in Veratrum nigrum L. (Liliaceae), an Andromonoecious Herb.
J Inetegr Plant Biol (2006) 48:1401-1408.
Wan-Jin Liao and Da-Yong Zhang
Increased Maleness at Flowering Stage and Femaleness at Fruiting Stage with Size in an Andromonoecious Perennial, Veratrum nigrum.
J Integr Plant Biol (2008) 50:1024-1030.
Posted 30 December 2009
その5 2009年箱根バイケイソウ調査報告
−資源量と雄花/両性花比、稔実率との関係−