その1


小学生の頃、あっくんの家のテレビは白黒だった(友達の家はカラーだったが...)。だから、当時のカラー雑誌(テレビマガジンだったと思う)で見たレッドアンドブルーの人造人間キカイダーがやけに印象的だった。あのころ仮面ライダーが全盛期で、毎週見ていたなあ。ライダーは白黒画面でもよかったけど、キカイダーは違った。ハカイダー四人衆なんて白黒画面だから、シルバーハカイダーしか見分けがつかねえんだぜ!(キカイダーを知らない方には話がちくわでスイマセン)

何の話だっけ?そうそう、ジャパンとの出会いを話すんだったよなあ。その白黒テレビで当時見ていた、ある車のCMが好きだった。道の向こうへ出かけようというフレーズに乗って、流れるような流線型のボディの車が走り去っていく。二重丸のテールランプが印象的で、歌とともに妙に気に入ったCMだった。白黒画面だったから、少なくともホワイトやブラックではないことだけしかわからないボディ色。それがスカイライン。今考えるとケンメリ2000GTX 2HTだったんだなあ。

当時親父はパブリカ(だったと思う)に乗っていて、よくドライブに連れて行ってもらったもんだ。ある夏休み、海水浴に行く途中、助手席に乗っているオレに親父が、

「ほう、これがスカイラインよ」

と言った。目を向けると、そこには真夏の太陽に照らされて鮮やかに反射するブルーメタリックの車がパブリカ、つまりあっくんが乗ってる車をあっという間に追い越していった。まさにCMと全く同じアングルで、目にしっかりと焼きついたあの車!このときのあっしの心中を察してくだせえ。

はじめて生で見るスカイライン!

車って、ただでさえ雑誌の写真やテレビCMで見たものより、実物のほうがインパクト強いでしょ?それとあいまって、はじめて総天然色カラー(爆)で見る実物。いやあ、ほんとビビビッって電気が走ったね。その瞬間、スカイラインという車が頭にしっかりとインプットされた。

それからしばらくたって、いつも遊んでいる路地に行くと我が目を疑った。そこには憧れの1/1ケンメリ2000GTXが注射...ぢゃない、駐車していた! しかもブルメタ!!

「うおおっ、かっこよかあ〜〜っ!」

檻の中の熊みたいに、何度もケンメリの周りをぐるぐる回る (←ストーカーだぜそれじゃ)。初めて間近に見る二重丸のテールランプ、その隣に「2000GTX」のエンブレムが!彫りの深いフロントグリル。そこには4灯のヘッドライトが(親父のパブリカは2灯。4灯が贅沢に見えたもんだ)。流れるようなリアビュー(ファストバックなんて単語は小学生のあたしにはない)、斜めに走るサイドライン(サーフィンラインなんて単語も以下同文)。

一番驚いたのが運転席。サイドウインドウ越しに覗くと、パブリカの数倍ものメーター類、スイッチ類が... ガキの頃からごちゃごちゃしたメカが好きだった。後に宇宙戦艦ヤマトにハマったのもゴチャメカ好きのせいだろうなあ。バスの運転席の計器類が好きで、必ず運転席のすぐ後ろの席に座る癖は今も直っていない。ルーツはサンダーバードだったと思う。

また話が脱線してしまったぜい。とにかくずらりと横に並んだメーター群、木目調のパネル(パネルに木が使われているなんて、パブリカしか知らないあたしにはすごく新鮮)、運転席と助手席の間も仕切られていて、そこにもごちゃごちゃしたスイッチ類が... 知ってる人は知ってると思うけど、当時は運転席と助手席の間はギアシフトとサイドブレーキだけで、フロアマットむき出しってのがほとんどだった。そこにもスイッチがあるとはなんてすごいんだ!あのスイッチを押すとどうなるんだろう?ガラス越しに届かぬスイッチを食い入るように見入った(今考えると、パワーウインドウのスイッチなんだけどね)。

この車いつまで停まっているんだろう?ずっと見ていたい(←ヘタな純愛小説みてえ)。今だったらデジカメなんかでパチリってやるんだろうが、当時のオレには当然そんなものはない。そこで急いで家に帰り、ランドセルの中からHBのえんぴつと消しゴム、それとジャポニカ学習帳(理科)を取り出して、再びケンメリの元へ急いだ。そして帳面(←死語)を開いて、おたまじゃくしがカエルへ成長する過程の図をすっ飛ばし白紙のページを開くと、おもむろにケンメリのコクピットを写しはじめた。大きな丸2つ、小さな丸を5つ書いてその中にFU..E.L、F、E、AM..P、OIL.. サイドウインドウに顔を密着させ、コクピットを食い入るように見つめ、アルファベット26文字だけの知識で正確に写し取っていく。その姿はやはりストーカー以外の何者でもない。じりじりと照りつける真夏の太陽。暑い!ハンドルの周りにも、いろんなスイッチが... ああめんどくさい... いや、我慢我慢。正確に写し取るんだ!がんばれあっくん!

一通り写し終えて家に帰ると、ジャポニカ学習帳を見ながら、さっきまで見ていた残像と重ね合わせてニヤニヤしていた。すると母親が、

「気色悪い子やねえ、なんニヤニヤしよっとやろか?」

当然の感想である。勉強ノートを見てニヤニヤする小学生はまずいない。それにしてもジャパンの話がまだ一向に出てこないなあ。