七日目(その1)


8時ごろ(だったかな?)目が覚めた。今日も晴れ、ほんとに今年の旅行は天気に恵まれている。今日の予定は十勝平野を南下、大樹から天馬街道を利用して浦河入り、静内までの旅。三日目にオグリキャップの新冠に行ったから、これで(道北を除いて)北海道を大体一周することになる。以前行った札幌/小樽、釧路/根室あたりは今年はオミット。一週間程度の旅で全てを網羅することはできない。今年は未知の土地、知床を旅するのが目的だった。

今日はゆっくりと身支度を整える。実は、ある理由があってチェックアウトをリミットいっぱいの10時前にすることにした。
めったに見ない朝のワイドショーを見ていると、アンディフグの試合が流れている。そういえば、昨日ラジオで、アンディフグがどうとか言ってたなあ。画面がスタジオに切り替わり、喪服姿の正道会館角田さんが写る。後ろにフグの白黒写真と菊の花が...えっ!? スーパーが入る。

「さよならアンディフグ」

...うそでしょ〜!!

アンディフグ逝去!なんで?...どうやら死因は白血病らしい。オレよりはるかに肉体的にも精神的にも健全な人間がどーして!?
この時はほんとびっくりした。最近じゃ鶴田、馬場、一昔前じゃブロディ、エリック兄弟にアドリアンアドニス、ディックマードックもそうでしたっけ?あれだけ強靭な肉体を持っている人達の訃報が、あっけないくらいに伝わってくる。プロレスをはじめとした、格闘技ファンの端くれであるあっくんに、夢を与えてくれた人達の死はショックやなあ。

アンディフグ選手のご冥福をお祈り致します。押忍!

そうこうしているうちに9時30分を回ったのでチェックアウト、駐車場に行く。念のためスカちんを見回してみるがOK、(右ドアを除いて)ぶつけられた痕跡は無い。そばのコンビニでパンと飲み物、少年チャンピオンを購入。今日は金曜日、東京と比べて北海道は雑誌の発売が一日遅い。暖気&パンをかじりながらチャンピオンを読む。ドカベンの山田や岩鬼、こいつら絶対年齢詐称だぜ!いつの間にかオレより年下になってやがる。

そろそろ暖まったかな、浦安鉄筋家族は後で読むとして出発、昨日歩き回った商店街を目指す。朝の商店街ってのは、開店前の掃除やゴミ処理なんかで独特の雰囲気があるね。これが飲み明かした朝帰りだったら、すごく虚しいんだな。んなことはどーでもいい。目的地のカメラ屋さんに到着、おおっ、開店しとるやんけ。ラッキー!
昨日電池とアダプターを調べて頂いたカメラ屋さん、どーしても一言お礼が言いたくて、10時まで出発時間を遅くしたわけ。このまま帯広を離れるわけにはいかんかった。だってそうでしょ?普通のカメラ屋さんだったら、

「このカメラに合う電池ないですか?」

「ないです」

これで終わり。昨日あっくんのPENTAX SPが復活したのは、何よりもこのカメラ屋さんのおかげです。

「おはようございます」
「いらっしゃい...ああ、昨日の方...店長、昨日のお客さんですよ!」
見ると、店長が鋭いまなざしで、出来上がった写真(たしか高校の吹奏楽会の写真だった)を一枚一枚入念にチェックしている。

「...ああ、いらっしゃい。どうでした?」
やっとあっくんに気づいた店長が答える。

「はい、おかげさまで見事カメラを復活させることができました」
「そうですか、それはよかった」
「旅先で、あなたのようなプロの方にお会いできて、ほんとうれしかったです。ありがとうございました!」
お礼といっては失礼だが、カメラフィルムを数本購入した。

「これからどちらへ?」
「ええ、大樹から天馬街道を通って浦河に抜けようと思ってます」
「お気をつけて」
「本当に助かりました。どうも、ありがとうございました!」
深々とおじぎをして出発、いい思い出ができた。来年も帯広に来よう。

ええ街や、帯広は!

帯広を離れ、国道236号線を南下する。放牧地の牛の群れ、農道沿いに一直線に立ち並ぶ針葉樹、赤い屋根のサイロ、十勝平野独特の光景が広がってきた。交通量もまあまあ、5速70〜80km/hで走る。そうそう、北海道から帰ってExcelで計算してみたんだけど、このくらいの走行が一番燃費がいいみたいやね。リッター10〜11km走る。ちなみに高速を5速110〜120km/hで走ると、リッター9〜9.5kmくらいになる。5速を使わない通常の市街地走行だとリッター7kmを切る。もちろんクーラーを切れば、もうちょっと伸びそう。でも、クーラー切るには今日も暑い!

幸福駅に到着、おおっ、アスファルトの駐車場が増設されとるやんけ!でも日陰じゃないんで、ここに駐車すると車内がサウナ状態になる。以前駐車した奥の木陰(ダート)に停車する。隣はファンタスティックな非水洗公衆トイレ、フローラルの香りが漂う(^^;

廃線となった広尾線、幸福駅前だけ線路が残っている。そこに1両の車両がぽつんと停まっている。鉄道マニアじゃないんで、形式云々はわからない。電車の中に入ると湿気が多く、古臭い匂いがする。網棚にはくもの巣、車内には現役時代の乗客の落書きがそのまま残っている。比較的新しい落書きは、観光客のものだろう。どーでもいいけど、相合い傘の落書きだけはセンスないからやめようね、ツトム君とカオリちゃん。

むっ、出たなショッカー!明日萌に飽き足らず、十勝平野にまで出現するとは...おのれ〜っ、

変身だ!

おみやげ屋さんで幸福駅の切符を購入、しばし休憩。ここは十勝平野のど真ん中、どこまでも続く放牧地、高い空にはうろこ雲、もう秋だなあ....出たなショッカー!(←しつこい!)

おみやげ屋さんの裏にいる、放し飼いのエゾリス。ちょっと写りが悪いなあ。シャッターを押す前までは、後ろに見える木の上にいた。リスは警戒心が強いので、しばらく待たなければ出てこない。

国道236号線に戻り再び南下、大樹町を目指す。大樹というと、競馬ファンにはタイキブリザードやタイキシャトルでお馴染みの地名でしょうが、今はそれどころじゃないみたい。某大手乳製品メーカーの大樹工場に検査が入るらしい。連日道内のトップニュースで流れている。実際この時期、立ち入り検査が始まったばかりで、まだ白黒ついていなかった。結果はご存知のとおり。プロの仕事を怠った代償はあまりにも大きい。その大樹町に到着、この辺はナウマン象の化石なんかが発見されるそうだ。近くにはカムイコタン農村公園というキャンプ場やピョウタンの滝もある。ここで一端236号を右折、標識どおりに天馬街道を目指す。天馬街道とは今離れた国道236号の(この辺りの)別名だが、道道を使って一部ショートカットする。再び236号に合流、一気に日高山脈を突き抜ける。ところで、帯広から日高地方に入るにはこれまで、

・日勝峠から占冠へ抜け、そこから平取経由で南下するルート
・海岸線に出て黄金道路から襟裳岬経由で迂回するルート

この2つしかなかった。人間を寄せ付けない険しさを誇る日高山脈。あっくんが初めて北海道の地を踏んだ1991年には天馬街道(正確には野塚トンネル)は無かった。それが3年くらい前にトンネルが開通した。これで日高山脈を迂回する必要がなくなったため、あっくんにとっては非常にありがたい。これまでは黄金道路経由で森進一の歌が流れる襟裳岬に立ち寄り、日高入りしていたが、黄金道路ってのは交通量も多いし、道幅も狭い。サーキットの狼をお持ちの方は、10巻か11巻くらいを開いてください(なければピーターソンが海に落ちた5巻あたり)。流石島の海岸コースって追い越しが困難でしょ?あれと同じで、黄金道路は(大型トラックが多いこともあいまって)低速走行を余儀なくされるため、非常にストレスが溜まる。海岸通りだけあって、眺めは抜群だけどね。

おわびと訂正。七日目ルートが浦河でストップしてるけど、実際は静内まで走りました。描いた後に気づいちった。すんまへん。

てなわけで、天馬街道をひたすら西に走る。のどかな十勝平野から景色は一変、険しい山岳地帯に入る。交通量もほとんど無い。旅行者のあっくんにはありがたい天馬街道だが、地元の方にはあまり利用されていないのかもしれない。ラジオからはノイズしか聞こえなくなる。ラジオを消すとBGMはL20サウンドだけ。これもまたいいもんだ。こんなワインディング道路でCDをかけると、(横Gに弱いため)音飛びするし、アームを傷めてしまう。
途切れることなく続く上り坂、5速ではトラクションがかからなくなる。3速にシフトダウン、NAのHGC210は130馬力しかない。やっぱ非力だよなあ。

野塚トンネルに突入、全長4200m。たしか北海道で一番長いトンネルじゃなかったかな?よくこんな所にトンネル掘ったもんだ。今あっくんは、文字通り日高山脈のど真ん中を走っている....ちょっと待てよ、たしか日高山脈って大昔は海だったんじゃなかったっけ?それがプレート移動の圧力に耐え切れなくなって断層が生じ、盛り上がって形成されたんだよなあ、たしか。ということは、やがて圧力に耐え切れなくなってこのトンネル、

ポキッと折れるんじゃないだろうな!?

ひええ〜〜っ、今だけは折れてくれるなよ!わがままな神頼みをするあっくん。こういうときに限って、前方をくそ遅いトラックが通せんぼするんだこれが。

頼むから早く走ってくれ〜!

(富山敬の声で)説明せねばなるまい。
元々日高山脈は海の底だった。それが、(1)東側の太平洋プレートから押され、(2)ユーラシアプレートがストッパーとなったため、(3)北アメリカプレートに歪み(断層)が生じて、岩盤がめくれ上がってしまった。こうして険しい日高山脈が形成されたわけである。ちなみに現在も、東側から圧力がかかっており、日高山脈は年間数ミリの単位で西へ移動している。

トンネルを抜けるとそこは日高だった。一転して今度は下り坂、長い鉄橋を駆け下りる。鉄橋を越えると、無料休憩所がある。ぽつんと公衆トイレがあるだけの、何の変哲も無い休憩所。別にトイレに行きたいわけじゃないが、あっくんは毎年必ずここに立ち寄ることにしている。そのわけは、(あまり公表したくはないんだが)ここは知る人ぞ知る、日高の名水が飲める場所だから(←友達には内緒だぜ!)。
日高地方が馬産地として成立するのは、日高山脈を源流とする石灰岩を多く含んだ水のおかげ。ミネラル分が豊富で、肥沃な土地作りに貢献している。湧き水の多い北海道でも、日高山脈にろ過された水は名水中の名水!それがこの休憩所に流れ落ちている(こうやってインターネットで公開するんだったら、写真撮っときゃよかったなあ)。流れ落ちる水を手ですくってゴクゴク飲んでみる。

うめえ〜!

何と言ったらいいんでしょう、ほんとミネラルウォーターってかんじ。冷たくてうまい。体が浄化されるような気がする。続いてペットボトルを取り出し、なみなみと注ぐ。今宵の水割りは一味違うぜ!

さて、行こうかねえ。スカちんに戻りエンジンスタート。う〜ん、ちょっと待てよ。さっきから休憩所の片隅に停車している一台の車が気になって仕方がない。ひょっとしてあの車... たぶん間違いない。よし、そばに行ってみよう。

またまた新たな出会いの予感!