五日目(その1)


朝7時半にモーニングコールで目が覚める。カーテンを開けると今日も晴れ、暑くなりそうだ。いよいよ今日は知床旅行、未知のルートだ。5〜6年前、網走経由で北浜という駅まで行ったことはある。その時、知床五湖まで行く予定だったのだが、網走から2時間はかかると聞かされ、諦めたことがある。初めて道東に行った時で、まだ北海道の広さを肌で理解していなかった。

チェックアウトを済ませ駐車場へ。ん?スカちんの駐車位置が変わっている。...そうだった。ここの駐車場は狭いので、ホテル側が車を整理するため、昨日キーを預けてたんだ。ホテルの人がスカちんを移動したらしい。
ホテルの方には失礼だが、こすったり、ぶつけたりしてないか念のためチェック... 大丈夫だ。
ドアを開け、キーを差し込む。何か変だ... ん?サイドブレーキが落ちたままになっている。そうだった。北国の人には、サイドブレーキを引く習慣がない。その代わり駐車時は、必ず1速かバックにギアをいれておく。理由は簡単、真冬にサイドブレーキを引いたまま駐車しておくと、翌朝どうなってるかご想像ください。

例によって暖気&荷物の整理。今日は水曜日、旅も中盤だ。早いなあ〜。会社にいる時と違って、あっという間に時間が過ぎてゆく。今日の予定は、知床半島を巡り、屈斜路湖のそば川湯温泉までの旅。北見から川湯温泉までは、まっすぐ行くと1時間もかからない距離。未知の土地を旅するんで、今日は時間的にゆとりを持たせてある。ゆっくり出発、近くのコンビニに停車する。昨日たらふく食ったんで、いつも以上に食欲がない。パンとお茶、コーヒーを買ってクーラーボックスに入れておく。

国道39号線を東に走る。今回は網走をショートカット、美幌から東に伸びる334号を使って一気に知床入りする。美幌駅辺りの道がややこしいんだ、これが。常に地図と照らし合わせて走らなければ、頭の悪いあっくんはすぐ迷ってしまう。

美幌駅近辺の超精密地図!道の複雑さがよく分かるでしょう?
左の走り書きは、単なるメモです。本編とは全く関係ありません(笑)

国道334号に入ると、後は知床まで一直線。前方に羅臼岳が見える。そういえば道東は一直線道路が多いところだった。昨日とはうって変わって視界が開け、ジャガイモ畑が広がる。こんな道路だとついついスピードを出しすぎてしまうが、多少交通量もあるので大丈夫、前方のトラックに十分車間距離をおいて5速70km/hで走る。それにしても暑い。昨日の明日萌も暑かったが、今日はそれ以上!クーラーをかけて窓を閉めてても、UVカットウインドウじゃないスカちんで走るとじりじりくる。ひょっとしてフロンガスによるオゾン層破壊とかで、道東は紫外線が強いんじゃないだろうなあ。ラジオの天気概況では、北見地方以外、全道的に曇り or 雨ですって!

おいおい、またかよ!

またあっくんが行くところだけ晴れている。まあ、ありがたいっちゃあ、ありがたいんだけどね。

しばらくすると、網走から伸びる国道244号線に合流、左手に真っ青な海が広がった。これがオホーツク海。太平洋とは青さが違う。オホーツクの海は、真夏でもどことなく「北海」をほうふつさせる冷たい青さ。いよいよ知床半島突入。

北浜駅から見たオホーツク海。海の向こうにうっすら見えるのが知床半島。高い山が羅臼岳。1996年撮影。

海岸沿いの道路をひたすら東に進む。交通量も増えてきた。スカちんの前後を観光ライダー軍団が取り囲む。バイクで風を切る旅も気持ちよさそうだなあ。

おうおう、そんなに気持ちよくツーリングできるのは、誰のおかげやと思っとるんや。わしのおかげやど。晴れ男のあっくんがいるから、それだけ走れるんやど。わしがおらんかったら、知床は雨やど!

聞こえないのをいいことに、威張りまくる小心者あっくんでした(爆)。

それにしても暑い!クーラーボックスからコーヒーのペットボトルを取り出してぐびぐび飲む。ついでにパンもひとかじり。ところで、今まであえて触れなかったが、この旅は一人旅ではない。助手席にはうちのかあちゃんが座っている。これまで注意深く読んでたら、一人旅じゃないことがわかったはず。走行中にクーラーボックスからペットボトル取りだしたり、パン食ったり、CD変えたりは簡単にできないからねえ(ていうか、写真見てたら誰かに撮ってもらったことが一目瞭然だよね)。

で、「かあちゃんがどうしたこうした」とか、いちいち二人称を入れると文章が書きにくいんだこれが。

「8月10日晴れ。今日は、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと海水浴に行きました。」
こんな出だしの日記、小学生のころよく見かけませんでした?二人称を表現すると、文章が締らないでしょ?

「8月10日晴れ。今日は海水浴に行って泳ぎました。楽しかったです」
以上。あっくんの日記は、実にシンプルでした。が、小学校の先生には理解されなかった。

「KAZくん、ちょっといらっしゃい。何ですかこの日記は?誰と行ったのかとか、何をしたのかとか、もっと書くことがあるでしょう」

コツン!

ゲンコツ食らって書き直し。
「8月10日晴れ。今日は、お父さんとお母さんと弟と海水浴に行きました。水着のおねえちゃんが平泳ぎをしているので、後をつけて泳ぎました。一人ハレンチ学園ごっこです。今度はおねえちゃんの前で泳いで、おしっこをしました。最後におねえちゃん目がけてウニを投げました。おねえちゃんが悲鳴を上げて楽しかったです」

「KAZくん、ちょっといらっしゃい。何ですかこの日記は?もっとまじめに書きなさい」

コツン!

どー転んでも怒られるんやないけ!(怒)

あの先生にこの北海道日記を読まれたら、また怒られそうやなあ(苦笑)。さて、話を元に戻しましょう(←どこまで脱線するんじゃい!)。

トンネルの前に休憩所がある。小さなおみやげ屋さんとトイレくらいしか見えないが、観光バスが何台も停車している。なんだ?
案内板を見ると「オシンコシンの滝」。おおっと、ここがそうか。有名な滝で、観光ブックには必ずでている名所だ。駐車場に入ると、かろうじて一台分のスペースを発見、スカちんを停める。駐車場から100mくらい山を登った所に、でっかい滝があった。高さはそれほどでもないが、流れ落ちる水量はかなりある。涼しい〜っ!流れ落ちる岩清水のおかげで、滝のそばは肌寒いくらい。

フルムーン旅行らしき老夫婦が、記念写真を撮り終わるのを待って、あっくんも写真撮影。と、高校生くらいのくそガキがずけずけと、カメラとあっくんの間に割って入ってくる。

なんちゅー憎たらしいガキじゃ!

親も旅先のエチケットというものを教えとけ!気を取り直して、再び写真撮影。

見てみい、わしの不機嫌そうな顔を!頭にきたんで、落書きしてやった。

 

気を取り直して、再び記念撮影。オレってポーカーフェイスやなあ(←おい)

さてさて、相変わらず駐車場は飽和状態なので急いで出発、後の観光客にスペースを譲る。国道334号をさらに東に進むとそこは宇登呂(ウトロ)。知床岬への観光船が出ているところだ。ちなみに知床岬には道もないし、観光船でも上陸できない。とにかく人間は立ち入り禁止、自然のままほっとくという土地だ。が、最近は不法に上陸してキャンプ&ゴミ置き去り野郎が後を絶たないと聞く。そんなとこ行っても、なーんもないことくらい分かりきっとるやないけ。普段は近所にコンビニが無いと生きていけないような連中がなんでだろ〜なんでだろ〜♪なんでだなんでだろ〜♪

いよいよ知床五湖方面へ左折する。右手にでっかい羅臼岳が見える。知床半島の原生林を走るワインディング道路。途中原野をまっすぐ突き抜けるジャリ道発見、RV車が走っていく。標識を見ると、「カムイワッカの滝11km」。たしか滝つぼが温泉になっている秘湯中の秘湯だ。舗装道路なら11kmくらいわけないが、ダートだったらオイルパンを打たないように徐行するため、スカちんじゃきつい。迷わず知床五湖方面へ。

知床五湖に到着、けっこうでかい駐車場が用意されている。他車にこすられないよう、隅っこのスペースに駐車する。暑い!都心のムッとするような暑さではない。突き刺すような暑さだ。まず展望台に行ってみる。おおっ、絶景!クマ笹だらけの原生林の先にオホーツク海が見える。クマ笹...!?

知床五湖展望台。左にオホーツク海がちょっち見えます。辺り一面クマ笹だらけ!

団体客を先導するバスガイドさんが説明している。

「この辺はクマがでることがありますので、気をつけて下さいね」

どー気をつければええんじゃい!

いよいよ知床五湖巡り。案内板を見ると、五湖全部巡るのは40〜50分歩くそうだ。行ってみっか。まずは一湖目、5分くらい歩くと到着した。

...ちょっと待て、これって湖か!?

はっきり言って沼じゃん。回りの観光客が歩くと、カランカランと音がする。みんな腰に鈴をつけている。そうか、クマよけの鈴か。ここは人間の領土だぞと、クマ達に音でアピールするアイテムだったな、たしか。どうやらあっくんは、何の予備知識も準備も無しに、大変なところに来てしまったらしい(笑)。観光旅行も命がけやね。

これが一湖。どー見ても沼やね(苦笑)。

さらに5分くらい歩くと弐湖...じゃない、二湖目到着。

...完全な沼だ(^^;

そばで、川口浩並みの探検服に身を包んだお兄さんが、これまた登山するような服を着た観光客に解説している。

「いいですか、クマがでたら、

オオッ!

とか、

ヨオオッ!

とか声を出して、まず威嚇して下さい!」

高校の体育教師のような独特のイントネーション。一発で体育会系の兄さんであることが分かる。知床五湖巡りとは、こういう根性が無いとダメなんか。

「この穴を見て下さい。アリの巣穴なんですが、クマはアリが好物。ですから、五湖回りのアリの巣は、かわいそうですが薬を流してアリを殺すんです!」

これじゃ、五湖巡りに来たのか、クマの生態を勉強に来たのか分からんなあ(爆)。この先、命がけで残り3つの沼を見る根性は、筋金入りの軟弱者あっくんには無かった。昭和新山のクマ牧場で、クマ達にエサやってたほうがよっぽど楽しい。

戻ろう。

おみやげ屋さんで記念に、

「知床五湖到達証明」

と書かれたりっぱな木札を購入。五湖全て制覇した証だ!(←おい)