朝7時過ぎに目が覚める。モーニングコールの前に目覚めてしまった。カーテンを開けると、今日の天気は曇り。苫小牧港から大型タンカーが出港して行く。TVをつけ、道内のローカルニュースを見ながら朝の身支度。徐々に体が目覚めてくる.... おかしい、体が変だ。
答えは一つしかない。北海道の空気と水と食べ物が、オレの体を正常に戻してくれたんだ。昨日は道南の大自然の中をはしゃぎまくった。温泉でリラックスもした。焼酎を支笏湖の水で割って飲んだ。北の大地の幸をたらふく食った。眠りも深かったのだろう。
東京じゃこうはいかない。朝になって、埃まみれの乾いた都会に花が咲くことがあっても(笑)、これほどの元気はもらえない。しみじみ自然の大切さを実感する。本レポートを初めから読んで下さってる方にはお分かりでしょう。土曜の昼に仕事疲れのとれない体で東京出発、パワステのない旧車を運転して深夜に青森到着、フェリーで数時間仮眠をとっただけで、日曜の朝から晩まで炎天下のもと遊びまくって飲んだくれ。それがあ〜た、月曜の朝には元気はつらつなんですぜ!やっぱ老後は北海道に別荘買うかあ...
ともかくマジで体が軽い。朝から食欲もある。でも、食う所を決めてあるから、メシはまだ後。それより体が遊びたがってるから、さくさくチェックアウト。スカちんもまだ雨に降られてないからきれい。よっしゃよっしゃ、暖気しながらトランクを開け、荷物のチェック&整理。今日の予定は、日高のとある牧場(?)を訪ねた後北上、富良野、美瑛、旭川までのドライブ。この辺りの地理をご存じの方だったら、まあ無理のない予定であることがお分かりでしょう。ところがこの日は、予想もしなかったハードな一日になることをこの時のあっくんはまだ知る由もなかった。
例によってゆっくり低速で出発、国道36号線を東に走る。片側4車線の広々した道路を、トラックが走る車線を避けながら走る。昨日までは実質移動に費やした二日間。ここからがほんとの北海道旅行じゃ。郊外に出てインターチェンジから、国道235号線へ入る。ここのインターは一般道と高速共用の珍しい形態で、一歩間違うと高速に入ってしまう。まあ、暫定無料の高速だからいいんだけど、平行する235号線を走っても速度的にも時間的にも変わらないんで、全く意味のない高速(笑)。勇払(ゆふつ)の原野を5速80km/hで走る。この辺は苫小牧東、通称「苫東(とまとう)」と呼ばれる地帯で、一大工業都市を目指している。が、誘致が一向に進まず、鹿が生息する原野と化している。前述の高速も、苫東の利便性を考慮してのものなのだろうが、終日がらがら状態。鹿は高速を走らねえもんなあ。不況で大変なのはわかるが、もうちょっと税金の使い方を考えようね、北海道さん。
さてさて、スカちんは235号をひたすら東へ、太平洋を右手に走る。ラジオをつけ、チューナーをNHKに合わせる。今日は月曜日、夏の高校野球は決勝なので放送は昼から。この時間は恒例の、夏休み全国子供電話相談室。
「...もひもひ」
「お名前と学年をどうぞ」
「山口健太(仮名)でし。8さいでし!」
「健太君、どんな質問かな?」
「フーッ...(←受話器に鼻息のかかる音)えっとお〜..フーッ...カブトムシはあ〜..フーッ...どこにいましか?」
「フーッ...ええとお〜..フーッ...地球の重さはぁ〜..フーッ...どれくらいでしか?」
鵡川を過ぎると、そこはもう馬産地日高。馬の親子が連れ添う姿が見え始める。子馬は生後半年くらいか。とねっ仔にとって、今が一番楽しい時期だろうな。海岸線を襟裳岬方面へひたすら進む。サラブレッドの壁画が見えてきた。ここが目的地の新冠(にいかっぷ)。泥火山を左折すると、そこはサラブレッド銀座。二丁目を右に入って着きました、ここが優駿SS(スタリオンステーション)。競馬ファンならもうお分かりでしょう。そう、あっくんの北海道旅行第一の目的、
オグリの元気な姿を見たら急に腹が減った。喫茶「優駿」で遅い朝食を取ることにする。海老天うどん¥450を注文。ボリュームもあってうまい。店員さんもやさしい方で、いつもリラックスする。ここはおみやげ屋さんも兼ねており、オグリキャップグッズも豊富にある。後で何か買おう。と、その時、
「登別のみやげだ」
地獄ビール(だったかな?)とかいう、登別の地ビールをテーブルに置く。どうやら登別温泉に行ってたらしい。
「めずらしいビールですねえ、たしか登別には水族館ができましたよね?」
すかさずオレが返答する。
「そこも行ったよ、ペンギンの行進を見てきた」
しばし登別の話に花が咲く。2年くらい前にオレもあの辺をうろうろしたことがある。
「地ビールも多いし、北海道にはクラシックもある。羨ましい限りです」
「オグリキャップビール造ったら買うか?」
「買います!でも、ビールって長期間おいとくと味が落ちるから、管理が大変ですね」
ショップの売上げを伸ばすのもスタリオンの大事な仕事らしい。観光客であるオレに感触を確かめている。ならばあっくんもまじめに答えねばなるまい。その他いろいろ商品や、他の秘密情報について話したが、ここでは伏せさせていただく。
「ところで2年前のよみうりランド、大変でしたねえ。帰りは大丈夫でしたか?」
「どうってことねえよ」
「台風と追いかけっこで、ほんと大変だったよ」
そばにいた関係者が教えてくれる。
「いや、どうってことねえ」
生姜焼き定食を食いながら、再び場長が答える。
「オグリは元気ですか?」
「ああ、元気元気、元気すぎて困ってるくらいや」
「それを聞いて安心しました」
一番聞きたかった言葉が聞けた。ファンなら知ってると思うけど、かつてオグリは喉に雑菌が繁殖して、生死の境を彷徨ったことがある。詳細は省くが、あの時オグリ以外の馬だったら、間違いなく死んでただろう。場長をはじめとする関係者の努力の結果、奇跡的に回復した。ほんと生命力の強い仔だ。ファンの皆さん、オグリは元気ですから、ご安心を!
これが優駿SS。馬房から芦毛の馬が見えますね(笑)。1992年撮影。この後まもなく、オグリは危篤状態に陥ってしまう。 |
あまり長居すると迷惑になる(と言いつつ、かなり長話をしてしまった)。
「どうも、いろいろありがとうございました」
場長にお礼を言って、おみやげコーナーに移動。いろいろ物色していると1枚のポスターが。おっ!サイヤーライン一覧だ。府中の競馬博物館で売り切れてたやつだ。ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークのサラブレッド三大始祖を中心に、現在の種牡馬までの系列を円グラフで表している。円グラフだからノーザンダンサー系が40%近く占めていること等が一目瞭然。¥2.000で即購入、傷めないようにスカちんのトランクに入れる。たった一枚のポスターがなぜ¥2.000もするのか、不思議な方もいらっしゃると思いますが、それだけの価値のあるシロモノです(競馬ファンだったらわかるよね?)。
再びカメラとビデオを持って、オグリのところに行く。さっき見たときから動きが無い... 寝てるようだ。馬って立ったまま寝るんですよ。少しは寝そべることもあるけど、馬の皮膚は非常に薄く、長時間寝そべると床ずれを起してしまう。だから立ったまま寝る。寝てるかどうか簡単に見分ける方法は、3本足で立ってるかどうか。脚を一本ずつ交代で浮かして、休めながら寝る。
薄曇りだった空が晴れてくる。牧場を流れるそよ風。いつまでも飽きることなく、ぼーっとオグリの白い馬体を眺める。時間を忘れてしまうぜ。ふとスタリオンの時計に目をやると、
「また最終日に来るからな」
やっと起きて草を食みだしたオグリに声をかけて国道235号に戻る。さあ、急がにゃあかん。