三日目(その1)


朝7時過ぎに目が覚める。モーニングコールの前に目覚めてしまった。カーテンを開けると、今日の天気は曇り。苫小牧港から大型タンカーが出港して行く。TVをつけ、道内のローカルニュースを見ながら朝の身支度。徐々に体が目覚めてくる.... おかしい、体が変だ。

すっきり爽やかやんけ!

昨日、一昨日とあんなに無茶したのに、きれいさっぱり疲れがとれている。酒も一滴も残っていない。あれだけひどかった脱水症状も治っている。なんでや?

答えは一つしかない。北海道の空気と水と食べ物が、オレの体を正常に戻してくれたんだ。昨日は道南の大自然の中をはしゃぎまくった。温泉でリラックスもした。焼酎を支笏湖の水で割って飲んだ。北の大地の幸をたらふく食った。眠りも深かったのだろう。

東京じゃこうはいかない。朝になって、埃まみれの乾いた都会に花が咲くことがあっても(笑)、これほどの元気はもらえない。しみじみ自然の大切さを実感する。本レポートを初めから読んで下さってる方にはお分かりでしょう。土曜の昼に仕事疲れのとれない体で東京出発、パワステのない旧車を運転して深夜に青森到着、フェリーで数時間仮眠をとっただけで、日曜の朝から晩まで炎天下のもと遊びまくって飲んだくれ。それがあ〜た、月曜の朝には元気はつらつなんですぜ!やっぱ老後は北海道に別荘買うかあ...

ともかくマジで体が軽い。朝から食欲もある。でも、食う所を決めてあるから、メシはまだ後。それより体が遊びたがってるから、さくさくチェックアウト。スカちんもまだ雨に降られてないからきれい。よっしゃよっしゃ、暖気しながらトランクを開け、荷物のチェック&整理。今日の予定は、日高のとある牧場(?)を訪ねた後北上、富良野、美瑛、旭川までのドライブ。この辺りの地理をご存じの方だったら、まあ無理のない予定であることがお分かりでしょう。ところがこの日は、予想もしなかったハードな一日になることをこの時のあっくんはまだ知る由もなかった。

例によってゆっくり低速で出発、国道36号線を東に走る。片側4車線の広々した道路を、トラックが走る車線を避けながら走る。昨日までは実質移動に費やした二日間。ここからがほんとの北海道旅行じゃ。郊外に出てインターチェンジから、国道235号線へ入る。ここのインターは一般道と高速共用の珍しい形態で、一歩間違うと高速に入ってしまう。まあ、暫定無料の高速だからいいんだけど、平行する235号線を走っても速度的にも時間的にも変わらないんで、全く意味のない高速(笑)。勇払(ゆふつ)の原野を5速80km/hで走る。この辺は苫小牧東、通称「苫東(とまとう)」と呼ばれる地帯で、一大工業都市を目指している。が、誘致が一向に進まず、鹿が生息する原野と化している。前述の高速も、苫東の利便性を考慮してのものなのだろうが、終日がらがら状態。鹿は高速を走らねえもんなあ。不況で大変なのはわかるが、もうちょっと税金の使い方を考えようね、北海道さん。

さてさて、スカちんは235号をひたすら東へ、太平洋を右手に走る。ラジオをつけ、チューナーをNHKに合わせる。今日は月曜日、夏の高校野球は決勝なので放送は昼から。この時間は恒例の、夏休み全国子供電話相談室。

「...もひもひ」
「お名前と学年をどうぞ」
「山口健太(仮名)でし。8さいでし!」
「健太君、どんな質問かな?」
「フーッ...(←受話器に鼻息のかかる音)えっとお〜..フーッ...カブトムシはあ〜..フーッ...どこにいましか?」

知るかっ!自分で探せ!

つくづくオレは教師に向いてないと思う。私は子供が嫌いだ!(←お前は伊武雅刀か)
それにしてもラジオの先生方は教え方がうまい。カブトムシは明け方活動すること、樹液を好むこと、普段は木の幹に潜んでいること等を丁寧に噛み砕いた表現で教えている。

「フーッ...ええとお〜..フーッ...地球の重さはぁ〜..フーッ...どれくらいでしか?」

分かるかっボケェ〜!天秤で計ってみい、自分!!

次々と登場するガキんちょにいちゃもんつけてたら鵡川(むかわ)に到着。ここには税込み108円で給油できるスタンドがある。税込みだから、他のスタンドより実質5円は安いことになる。毎年必ず立ち寄るスタンドだ。例によってハイオク満タン。走行距離をチェックして出発。

鵡川を過ぎると、そこはもう馬産地日高。馬の親子が連れ添う姿が見え始める。子馬は生後半年くらいか。とねっ仔にとって、今が一番楽しい時期だろうな。海岸線を襟裳岬方面へひたすら進む。サラブレッドの壁画が見えてきた。ここが目的地の新冠(にいかっぷ)。泥火山を左折すると、そこはサラブレッド銀座。二丁目を右に入って着きました、ここが優駿SS(スタリオンステーション)。競馬ファンならもうお分かりでしょう。そう、あっくんの北海道旅行第一の目的、

オグリキャップに会うんでし!

駐車場にスカちんを停め、早速放牧地へ。マヤノトップガンの向こう... いたいた!元気そうだな。毎年変わらぬ光景に安心する。何枚か写真撮影。ところで、オグリをはじめとした名馬の写真はたくさん持っているが、馬達には肖像権がある。公表するには(正式には)馬主の許可が必要。従って、この場では馬の写真を公開できないことをご了承ください。まあ、サーチエンジンで「オグリキャップ」を検索すれば、死ぬほどヒットするでしょう。

オグリの元気な姿を見たら急に腹が減った。喫茶「優駿」で遅い朝食を取ることにする。海老天うどん¥450を注文。ボリュームもあってうまい。店員さんもやさしい方で、いつもリラックスする。ここはおみやげ屋さんも兼ねており、オグリキャップグッズも豊富にある。後で何か買おう。と、その時、

「いや〜、昨日の札幌記念は取れなかったなあ、今日は生姜焼きくれ!」

聞き覚えのあるでかい声(←失礼)。優駿SSの堀場長だ。偶然にも場長と同席することになった。まさに今年は出会いの旅!

「登別のみやげだ」

地獄ビール(だったかな?)とかいう、登別の地ビールをテーブルに置く。どうやら登別温泉に行ってたらしい。

「めずらしいビールですねえ、たしか登別には水族館ができましたよね?」
すかさずオレが返答する。
「そこも行ったよ、ペンギンの行進を見てきた」

しばし登別の話に花が咲く。2年くらい前にオレもあの辺をうろうろしたことがある。

「地ビールも多いし、北海道にはクラシックもある。羨ましい限りです」
「オグリキャップビール造ったら買うか?」
「買います!でも、ビールって長期間おいとくと味が落ちるから、管理が大変ですね」

ショップの売上げを伸ばすのもスタリオンの大事な仕事らしい。観光客であるオレに感触を確かめている。ならばあっくんもまじめに答えねばなるまい。その他いろいろ商品や、他の秘密情報について話したが、ここでは伏せさせていただく。

「ところで2年前のよみうりランド、大変でしたねえ。帰りは大丈夫でしたか?」
「どうってことねえよ」
「台風と追いかけっこで、ほんと大変だったよ」
そばにいた関係者が教えてくれる。
「いや、どうってことねえ」

生姜焼き定食を食いながら、再び場長が答える。

う〜ん、場長ってば意地っ張り!(笑)

実は2年前の秋(1998年)、あっくんの地元よみうりランドにオグリキャップ(とタマモクロス)が来たことがある。このときは一目オグリを見ようと、お客さんが殺到してパニックになった。順番待ちが嫌いなあっくんは、ほとぼりが冷めるまで傍観していたが、大変だったのは場長をはじめとする係員たち。急遽入れ替え制にして急場を凌いでいた。時間をずらせばゆっくり見れたのにねえ。ほんと群集心理というのは怖いものがある。それに、遊園地という場所柄、種牡馬と一般動物との区別のつかない人が多すぎたんだろう。
さらにオグリが新冠に帰る時、台風が上陸、関東/東北/北海道を縦断した。だから、てっきり帰るのを一日ずらしたと思ってたんだが、強行したらしい。本当にお疲れ様でした!

「オグリは元気ですか?」
「ああ、元気元気、元気すぎて困ってるくらいや」
「それを聞いて安心しました」

一番聞きたかった言葉が聞けた。ファンなら知ってると思うけど、かつてオグリは喉に雑菌が繁殖して、生死の境を彷徨ったことがある。詳細は省くが、あの時オグリ以外の馬だったら、間違いなく死んでただろう。場長をはじめとする関係者の努力の結果、奇跡的に回復した。ほんと生命力の強い仔だ。ファンの皆さん、オグリは元気ですから、ご安心を!

これが優駿SS。馬房から芦毛の馬が見えますね(笑)。1992年撮影。この後まもなく、オグリは危篤状態に陥ってしまう。

あまり長居すると迷惑になる(と言いつつ、かなり長話をしてしまった)。

「どうも、いろいろありがとうございました」

場長にお礼を言って、おみやげコーナーに移動。いろいろ物色していると1枚のポスターが。おっ!サイヤーライン一覧だ。府中の競馬博物館で売り切れてたやつだ。ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークのサラブレッド三大始祖を中心に、現在の種牡馬までの系列を円グラフで表している。円グラフだからノーザンダンサー系が40%近く占めていること等が一目瞭然。¥2.000で即購入、傷めないようにスカちんのトランクに入れる。たった一枚のポスターがなぜ¥2.000もするのか、不思議な方もいらっしゃると思いますが、それだけの価値のあるシロモノです(競馬ファンだったらわかるよね?)。

再びカメラとビデオを持って、オグリのところに行く。さっき見たときから動きが無い... 寝てるようだ。馬って立ったまま寝るんですよ。少しは寝そべることもあるけど、馬の皮膚は非常に薄く、長時間寝そべると床ずれを起してしまう。だから立ったまま寝る。寝てるかどうか簡単に見分ける方法は、3本足で立ってるかどうか。脚を一本ずつ交代で浮かして、休めながら寝る。

薄曇りだった空が晴れてくる。牧場を流れるそよ風。いつまでも飽きることなく、ぼーっとオグリの白い馬体を眺める。時間を忘れてしまうぜ。ふとスタリオンの時計に目をやると、

げっ、もう1時!

完全に予定時間オーバー!場長との会話がうれしい誤算だったが、今日はまだまだやることが山ほどある。スカちんの暖気も程ほどに出発。

「また最終日に来るからな」

やっと起きて草を食みだしたオグリに声をかけて国道235号に戻る。さあ、急がにゃあかん。