二日目(その1)


「ガガァ〜ッ...ピンポンパンポン...長らくのご乗船、お疲れ様でした。本船はまもなく函館港に到着いたします..ガガァ〜ッ...お車でご乗船のお客様、お車のほうまでお戻りください」

「ゲッ!もう着いたんかい!?」

バカでっかい船内アナウンスに容赦なくたたき起こされる。急いで顔を洗って着替える。カーテンを開けると、まぶしい朝の光が差し込む。荷物をまとめて、忘れ物が無いかチェックする。

「ガガァ〜ッ...1等室のお客様、ルームキーをカウンターまでお返しの上、お車までお戻りください」

「だああ〜っ、うっせえなあ。わーっとるわい!」

タバコを吸いたいのを我慢してチェックアウト、急いでスカちんに戻る。周りの車は既にエンジンスタートして、下船を待っている。1等室だと熟睡するんで、いつも遅れてしまう。ハンカチで鼻を押さえてドアオープン、すぐにドアを閉める。エンジンをかけ、外気が入ってこないようにクーラーをかける。5分程度で暖気完了、あれだけ急かされたのに、まだゲートは開かない。

「まだかな〜、タバコ吸いたいな〜、トイレ行きたいな〜」

ようやくゲートが開かれ、一台ずつ下船が始まった。係員の指示に従い、微速前進0.5(笑)。函館港の駐車場に停車する。ほとんどの人は停車することなく、そのまま国道に走り去っていくが、朝丘雪路以上に朝弱いオレにそんな芸当は無理。函館港のトイレに駆け込んだ後、歯を磨いて顔を洗う。そしてまずは食堂で腹ごしらえ。寝起きはあんまし食欲無いが、消化のいいあつあつのかけそばをすする。北海道の昆布ダシがきいててうまい。ようやく心身ともに目覚め始めた。

食後にタバコを吸いながら、背筋を伸ばしたり腕を回したりして準備運動。今日は函館観光の後、国道5号線を北上、長万部でカニメシ食って洞爺湖、支笏湖経由で苫小牧までのドライブ予定。フェリーで3時間くらいしか眠ってないから、毎年一番きつい一日になる。フェリー乗り場のテレビから、今日は全道的に晴れとの予報が流れる。今日も暑くなりそうだ。ようやくスカちんに乗り込み出発。まずはいつものとおり、函館山に登ろうかねえ。内地とは比較にならない車幅の広い道路、今年もやってきました北海道!函館駅を横目に路面電車と並走する。我がふるさと北九州にはもう無い路面電車。いつまでもこの光景が残ってて欲しいもんだ。がんばれ函館電鉄!ついててもしょーがないけど、オレがついている!

くだらない独り言をぶつぶつ言いながら、二十間坂(←でしたっけ?)を2速で上がる。登りきったあたりに函館山ロープウェイ乗り場やハリストス教会といった観光名所がある。この辺はこれまで何度も来てるんで、ノンストップで一路函館山を目指す。山間を縫うように、山頂まで続くワインディング道路。朝っぱらから攻めるつもりは無いが、2速、3速とうまくシフトチェンジしてエンジンを3000回転以上にキープしておかないとトルクが稼げない。最近のホンダVTECエンジンなんかと違って、こちとらL20インジェクション。一気に吹き上がるなんてことは無理。でも、エンジンさえ高回転をキープしとけば、けっこうスムーズに加速する。燃費が悪いはずだぜ、うちのスカちんは。

山頂に到着。やや霧がかかっている。ふもとは青空だったが、頂上は曇り空。独特の光景だ。ここでスカちんの写真をパチリ。雨に降られないうちに、きれいな車体を撮っておこう。

函館が一望できるスポットに移動、しばし遠くを見つめ、北海道に来たことを実感する。ここは夜景で有名なアングルだ。さっきまで乗っていたフェリーが、函館港から今度は青森に向けて出港している。入れ違いに3本マストの船が入港してくる。

「咸臨丸ですよ。日本一週の旅をしてて、今日函館に着くんです」

近くにいたご老人が親切に教えてくださった。ほんと今年の旅は予期せぬ出合いが待っている。咸臨丸っちゅーと、乗ってたのは勝海舟?坂本竜馬?はたまたジョン万次郎?幕末の知識に疎いんでよーわからん。ご老人は咸臨丸ファンらしく、わざわざ函館山まで写真撮影に来られたらしい。記念にオレも写真を撮って、ご老人にお礼を言う。

今回は霧がかかってて、あまりうまく撮れなかったっす。これは1996年に行った時の写真。

さてさて、次行こうかねえ。スカちんに戻って下山する。4速でもエンブレがきいて、アクセルを踏み込まないと進まない。Rのきついコーナーでアオっても、全くぶれることなくレールの上を走るように下って行く。これがジャパンの魅力。安心して坂を下ることができる。

ヨットハーバーに到着、金森赤レンガ倉庫の前に停車する。ここも有名な場所。サスペンス劇場で函館カニ食べ放題殺人事件(爆)なんかやると、必ず撮影されている所だ。赤レンガにワインレッドのスカちんが似合うと思って写真撮影。すると、

「北九州から来たの?生きたイカ見たことある?」

ふり返ると、鮮魚店のおじさんが軽トラックの運転席から声をかけている。とれたてのイカを漁港から市場へ運ぶところらしい。イカとは無縁の北九州から来たと思われたのだろうが、こっちは何回も北海道に来ている。もちろん生きたイカは見たことあるし、イカソーメンも何回も食っている。でも、せっかく親切心から声をかけてくださってるんで、うそをつくことにした。

「ええ〜っ、生きたイカですかあ〜っ?見たことないですぅ〜」(←おい)

するとおじさんは、トラックから降りてきて保冷庫を開け、とれたてのイカを見せてくださった。うまそ〜っ!イキのよさそうなイカが何ハイも泳いでいる。透き通るような黄金色のイカ!イカ刺しにすると角がピンと立つんだろうなあ。

「イキがいいですねえ。貴重なものを見せていただいて、ありがとうございました」

お礼を言うと、おじさんはにっこり笑って走り去っていった。それにしても、オレってそんなに声かけやすいように見えるか? 以外にナンパされやすいタイプかも。(←ええかげんにせえよ、自分)

金森赤レンガ倉庫から函館山を望む。20分前まではあの頂上にいた。

 

函館の朝市に移動、駐車場に停める。今日は日曜日なんで自由市場はやっていない。今度はビデオを取り出して、回しっぱなしで朝市を歩く。ちなみにあっくんのビデオは何とS-VHSC!毎年北海道でしか使わないし、十分写るからいまだに使っている。カニ、ウニ、イクラ、シャケ、アワビ、ホッケにイカetc... 海の幸の匂いをかぐとなぜか落ち着く。

「お兄さん、朝ごはん食べてかない?」

食堂のおねえさんに声をかけられる。これが歌舞伎町だったら、

「お兄さん、遊んでかない?」

えらい違いだ(爆)。

「ああごめんなさい、もう食べたんですよ」

ウニ丼もイクラ丼も好きなんだが、体が冷えちまうんで朝っぱらからは食えない。申し訳ないっす。路地に入って八百屋を探す。たしかこの辺だったけどなあ...

「お兄さん、何探してんの?」

鮮魚店のおじさんが声をかけてきた。

「いや、この辺に八百屋があったと思ったんだけど... ないですね」
「ああ、それは○○商店だな。市場のほうに引っ越したよ。そこの路地を入ってまっすぐ行ったところで聞いてみな」
「ありがとうございます!」

こんなに親切にしていただいて恐縮。あっくんてば以外にテレ朝...ぢゃない、照れ屋さん。教えられたとおりに路地を歩く。広い市場に出ると... あったあった、見覚えのあるおば... おねえさんがメロン売っている。

「こんにちは、お久しぶりです。今年もメロン買いにきました」

「...あんた誰?」

どっぱあ〜〜ん!

気を取り直して、路地に店出してた頃に何回かメロンを買ったこと、ウニを食ったことを説明する。

「...ああ、あの時のお兄さん!しばらくだねえ」

ほんまに思い出したんか!?

まあいいや。何切れかメロンを試食させていただき、9月に宅配便で送ってもらうことにした。北海道のメロンていうと夕張メロンが有名だが、いつも買うのはキングルビー。甘いだけでなく、少し渋みも入った深い味わいがお気に入り。さて、メロンの次はガーニ毛やね。

「それから、毛ガニ買いたいんだけど、お勧めの店ある?」
「カニだったら△△商店がいいよ。案内してあげるから、ついてらっしゃい」

ありがたいことです。紹介して頂いた店で、早速毛ガニの試食。う〜ん、この深い味わいは独特だぜ。これまた9月に空輸してもらうことにした。○○商店、△△商店のみなさん、ありがとうございました。

北海道上陸早々、一気に?万円使ってもうた。よかよか、今年の北海道は思いっきり贅沢することに決めている。不況で大変だろうけど、がんばれ北海道!ついててもしょーがないけど、オレがついている!(←こればっか)

毛ガニ食ったんで喉が渇いた。自販機でデカビタCを購入、一気飲み。さあ函館出発じゃ。次はノンストップで長万部まで120km。北海道を走る時は、1時間60kmを目安にすればいい。ゆっくり行っても2時間で着く。12時前には到着してカニ飯食おう。スカちんに戻ってエンジンスタート。5号線をまっすぐ走ると遠回りになるし、多少渋滞も予想されるんでフェリー埠頭に逆戻り。広い県道...じゃない、道道をスムーズに北上する。既に気温は30℃近いが、東京と違って湿気が少ないため、窓を開けると気持ちいい。クーラーからも実に気持ちのいい冷風が吹く。水温も低く安定している。ラジエーターも気持ちのいいそよ風を取り込んでるのだろう。ひょっとしてサーモスタットは閉じているかもしれない。前方には雄大な駒ケ岳、北の大地のそよ風、5速80km/hで喜びのエンジン音を響かせるスカちん。全てが最高〜!(^^)

駒ケ岳のふもとで5号線に合流、3速で一気に坂を上がる。トンネルを抜けるとそこは大沼だった。ここは湖畔で森林浴するには絶好の場所。でも2〜3年前に行ったことあるんで、今回はパス。まっすぐ長万部を目指す。ここで北海道旅行を考えていらっしゃる方にワンポイントアドバイス。北海道は広いです。九州と四国を合計した面積より広い。とても一週間やそこらで回りきれる所ではないです。ですから、旅行する場合は行きたいポイント、やりたいことを絞ることをお勧めします。例えば、富良野でキャンプがしたいとか、日高で牧場めぐりがしたいとか、やりたいことを決めて、その他はオミットするくらいの気持ちがなければ、時間がいくらあっても足らなくなります。もちろん時間を気にせず、行き当たりばったりで旅するのも最高でしょうけど、なかなか難しいですよね。

てなわけで大沼を右手にスカちんは走る。しばらくすると前方に真っ青な太平洋が広がった。
 

「おお〜っ、きれいやなあ!」


今年は天気にも恵まれて、特に青く見える。こんな夏の海を見ると、ブルメタのケンメリを思い出す。ブルメタのケンメリ...今何台残ってるんだろう?

右手には太平洋、左手には手付かずの自然の原野が広がる。そしてどこまでも続く一本道。これぞ北海道。でも、前方で黒煙撒き散らしてるトラックが邪魔だな。追い越し禁止の黄色い中央分離線が白い破線に変化した瞬間、アクセルをアオって3速にシフトダウン、対抗車線に出る。一気に加速、トラックを後方に追いやる。エンジン回転数さえ落とさなかったら、名ばかりのGTでもレスポンスはいいぜ。(^^)

それにしてもあのトラック、ひどい黒煙だったなあ。不完全燃焼起してるんじゃねえかあ?東京都だけでなく、ディーゼル車対策は北海道も考えたほうがいいと思うのはオレだけか?
えっ?お前も旧車で排ガス撒き散らしてるだろって?そりゃそうだが、スカちんは昭和52年型。触媒のデカさだったら誰にも負けへんど!(笑)
とにかく、できるだけNOxを撒き散らさないよう、日ごろから手入れはしておきたいもんだ。

あまりに眠くて木陰に停車、寝ているあっくん。場所は長万部の30km手前の山あい。ケンメリのCMみたいやね(笑)。1996年撮影。

さらに山越え町を越え、長万部を目指す。時折道端で売っているとうきびの香ばしい匂いが入ってくる。と言えば聞こえはいいが、けっこう眠くなってきたんで、実際はくちゃくちゃガム噛んだり、タバコ吸ったりの繰り返し。ムードねえなあ(笑)。ようやくぽつりぽつりと、浜チャンポンの看板やカニのオブジェが見え始める。もうちょっとだな。しばらくすると、見覚えのある青い屋根が見えた。ここが目的地の「かなや」。駅弁でも有名な食堂だ。時刻は午前11時30分。駐車場はガラガラ、でもあと30分もすればいっぱいになるだろう。出入り口に一番近い所に停車、軽いアフターアイドリングの後、エンジン停止。スカちんも小休止やね。

おみやげ屋さんに入って、あるものを探す。...あれっ、無いなあ。見つからないんで、店員さんに聞いてみる。

「すいません、おしゃまんべ物語はどこにありますか?」
「ごめんなさい、製造が追いつかなくて売り切れてるんですよ」

ショック!!

キムタクできちゃった結婚... 違う!売り切れてるってか!?
おしゃまんべ物語というのは、かなやオリジナルの佃煮の名称。カニ飯に限らず、ご飯によく合うんだこれが。

「明日だったら入荷するけどねえ」

明日は来れねえなあ。ていうか、長万部には今回の旅行ではもう来ない。仕方がない、あきらめよう。まあ、食堂でカニメシ頼めば付け合せで出てくるし、食えないわけじゃないからいいや。食堂に入ってカニ飯1000円なりを注文、すぐに出てきた。毎年おなじみのカニ飯にあさりダシの味噌汁、おしゃまんべ物語/サクラ漬けの3点セット。重箱のふたを開けると、味付けしたカニと、茹でただけのカニがバランスよくご飯の上にぎっしり敷き詰められている。

「うめ〜〜え!」(←ヤギかお前は)

おしゃまんべ物語をカニの上に乗せ、一気にパクつく。こうやって書いているだけで、あの味が蘇ってくるなあ。来年はもっと腹すかせて行って2人前食おう。一粒残らず平らげ、ごちそうさまでした〜!

食堂の出入り口のベンチに腰掛け一服。12時を過ぎると、予想通り駐車場が埋まってくる。観光バスも何台か停車してきた。スカちんの横にも観光バスが停車する。わあ〜、団体さまのお着きだ〜(←ここは山田康雄さんの声で読むと引き立ちます)。

バスから出てくるおばさん軍団は一目散に食堂に入る。カニしか頭に無いようだ。しかしながらおじさん軍団の一部は、スカちんをじろじろ見ながら歩いて行く。ほう〜、わかっとるやないけ。昔ジャパンに乗ってたのかな?

既に駐車場は飽和状態。あんまし長居すると、後のお客さんの迷惑になるのでエンジンスタート。次の目的地は、あの洞爺湖。今年は行けるんかいな?期待と不安を胸に再び国道5号へ。後半へ続く。(←ここはキートン山田さんの声で読むと効果的です)