Let It Be

鎮魂歌


ジョン・レノンが、狂信的なファンのチャップマンに銃で殺されたのは、1980年12月8日です。
私が、二十歳の時でした。
私は、その事を、夕食の食卓で妹に知らされました。私は、そんなことあるわけないって、かなりの勢いで妹に怒った覚えがあります。
しかし、その後、テレビのニュースで事実である事を知って、かなりのショックを受けました。信じられませんでした。その後のニュースをいろいろ見て、本当らしいと信じました。
その夜は、悔しくて眠れませんでした。
五年ぶりに活動を再開して、「ダブル・ファンタジー」という素敵なアルバムを出して、これからって言うときに、死んでしまうなんて。日本にも来るんだろうな、なんて楽しみにしていたのに。
次の日、結局一睡もできないまま、学校に行きました。
クラスの中でも、ジョンの話題で持ちきりでした。
バンドをやっている奴が一人、熱を出してしまったということで、学校を休んでいました。
なんで俺は熱を出さないんだろう、と変な嫉妬を感じてしまいました。

クラスの仲の良い友達が集まって、ジョンをしのぶ会を開こうという事になりました。
場所は、私の家の私の部屋を提供しました。ファンで無い奴も含めて、6〜7人集まりました。
ビートルズのテープをかけて、ビートルズの写真、とくにジョンの写真をテーブルの中央において、ビールを飲みました。
最初は、ジョンの話しやらビートルズの話しをしていましたが、そのうち関係ない話しで盛り上がりました。
そのころ、ビールの2リットルアルミ缶というのが出て、注ぎ口をつけると、注ぐときぴよぴよとなったりするんですが、みんなで飲むときは、好んでそれを買って飲んでました。
飲み会は、盛り上がって、そのアルミ缶を頭に叩きつけ合い始めました。アルミだから、あまり痛くないんです。でも、一度へこむと角ができるので、そこでなぐられると、かなり痛かったりもしました。
みんなでげらげら笑いながら、ヒステリックに殴り合いました。
ふと、私のラジカセから、「Let It Be」のイントロのピアノの音が鳴り始めました。
みんな一斉に静かになって、私の部屋はしんとして、出ている音は曲のみとなりました。
「Let It Be」の歌の連呼の時、誰かが歌い始め、いつしか全員で合唱していました。
みんな泣いていました。ファンで無い奴まで涙を流していました。
私も、ぼろぼろ涙を流しながら、歌いました。もう泣いてしまっているから、声が出難くなっているのに、無理に声を絞り出して、歌いました。
その曲が終わったとき、会は静かに終わり、みんな静かに帰っていきました。
その時、「Let It Be」は、私にとって、ジョンの鎮魂歌になりました。


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Let It Be
(Paul)
アルバム「LET IT BE」のB面1曲目に収録
1970年5月8日リリース

今でも油断して聴いていると涙が出てきます。
車に乗っているときに、ラジオからいきなり聞こえてきてしまうと、
涙で目がかすんで、危ないのなんのって。
だから、大好きなんだけど、滅多に聴かないんです。


'99.8.22
Minomushi

MIDI提供
Nobuo Takenaka