その8 2012年の北海道のバイケイソウ
2012年の6月は、北海道の礼文島、稚内・サロベツ原野、旭川郊外、野幌森林公園にバイケイソウの花の観察に行ったが、不思議なことに、全ての調査地区で開花個体を見ることができなかった。例年ならば花が咲いている時期であり、年によって開花個体数に変動があることは確かだが、全く花を見ることができなかったということはこれまでの経験ではなかった。したがって、2012年は北海道の多くの地域でバイケイソウが花成しなかったと考えられる。バイケイソウは年によって広域に開花が目立つ年と目立たない年がある。そのため本種は個体群間で同調して一斉開花する性質を持つ可能性があると考えられている(谷;2010)。2012年に北海道でバイケイソウがどのくらい花成したのか、財団法人 北海道新聞野生生物基金が行なっている「北海道フラワーソン2012」(5年に一回、6月に日にちを決めてボランティアが一斉に各地区の自然観察を行なう活動)の調査結果によると、前回の2007年の調査では537地区中245地区でバイケイソウの花が確認されたが、2012年は509地区中40地区でしか花が見られなかったとのことであった(ちなみに、この調査では礼文島でバイケイソウの花が目撃されいることになっている)。この時の開花個体目撃地域の道内分布を見ると、特定の地域に偏っている様子はなく、道内各地で花成しないバイケイソウ群落が多かったようである。バイケイソウは種子繁殖に加えてクローン繁殖も行ない、花成しない個体は、翌年、地下に残った垂直塊茎の茎頂から再び葉が展開して単軸成長するだけだが、花成した個体は、成長を終えた主軸の周囲に1-3個の腋芽(子ラメット)を作りクローン繁殖する。したがって、クローン繁殖するためにも花成することが必須となる。よって、花成個体が見られなかった地域では、種子繁殖もクローン繁殖も行なわれなかったことになり、群落内の個体数は、子ラメットの枯死による減少や埋土種子の発芽(バイケイソウ種子が埋土種子として発芽能力を経年維持しているかは私自身情報はない)による増加といったことを除いて、変化しないことになる。一斉開花は、植物学において興味深い現象として多くの研究がなされており、繁殖戦略上の利点が推測されている。2012年のように地域内の個体が同調して花成せず全く繁殖しないという一斉開花とは真逆の現象がバイケイソウの繁殖戦略にとってどんな意味があるのか興味が持たれるところである。
Posted 24 March 2013
Revised 7 July 2013