バイケイソウ考

その7 2010年春の学会でのバイケイソウ関連の発表
     

2010年春の学会において、下記3題のバイケイソウに関する発表がありました。

日本生態学会第57回全国大会 一般講演(ポスター発表) P1-087
草嶋乃美、加藤優希、大原雅(北大・院・環境科学)
クローナル植物バイケイソウ個体群の遺伝的構造

日本生態学会第57回全国大会 一般講演(ポスター発表) P1-185
谷友和(上越教育大)
バイケイソウの一斉開花現象と地理的な同調性

日本植物分類学会第9回大会 一般講演 L-19
菊池諒(東北大・院・生命科学)、高橋弘(岐阜大・教育)、Pak Jae-Hong(Kyung-Pook National
Univ.)、牧雅之(東北大・院・生命科学)
核マイクロサテライトマーカーを用いたバイケイソウの系統地理学的解析


 草嶋らは、バイケイソウの種子繁殖とクローナル繁殖が個体群の維持・形成にどの程度貢献しているかを、北海道の恵庭、野幌、千歳、荻伏に自生する集団ついて調査しました。その結果、恵庭では小型ラメットと大型ラメットが多数生育していることから種子繁殖とクローン繁殖の両方が個体群の維持・形成の貢献しており、野幌、千歳、荻伏では小型ラメットが少なく大型ラメットが多いことからクローン繁殖の貢献が大きいことがわかりました。したがって、バイケイソウの個体群の維持・形成に対する種子繁殖・クローン成長の依存度は集団によって異なっていると考察しています。

 谷は、バイケイソウの個体群間での一斉開花における年変動と地理的な同調性について、2002年~2008年にわたって北海道道央域の8ヵ所の調査地で開花ラメット数を計測することで解析を行ないました。その結果、いずれの調査地においても開花量の年変動が見られましたが、気温や降水量等の環境条件が類似していると考えられる地理的に近い距離にある調査地であっても開花量の同調性は低く、地理的距離が増すにつれて同調性がさらに低下することがわかりました。これらの結果から、バイケイソウの一斉開花には個体群間の距離を反映した要因と距離とは無関係の要因の両方によって決まると考察しています。

 菊池らは、バイケイソウの核マイクロサテライトマーカーを用いて日本国内および朝鮮半島等の集団の遺伝的構造の解析を行ないました。これまでにバイケイソウに関しては、葉緑体DNA非コード領域を用いた系統地理的解析結果が報告されており、それによると、国内のバイケイソウは北海道と中国地方以西に分断分布するグループと日高地方と東北地方から近畿地方にかけて分布する2つの遺伝的グループに分けられていました。今回の調査では、北海道・東北地方の北方系統と中部地方以南の南方系等の2つの系統に分かれました。よって、日本国内のバイケイソウは南北の陸橋から異なる系統が移入されたと考えられます。

Posted 29 April 2010

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