その3 バイケイソウの花序における両性花/雄花の分布
バイケイソウは雄性両全性同株(andromonoecy)で、総状花序の集まった大きな円錐状花序に両性花と雄花をつけます。花序の中での両性花と雄花の分布について箱根に自生するバイケイソウで調査したところ、個体によって両性花/雄花の比が異なっていることが判りました。
バイケイソウの花序における両性花/雄花の分布パターンは大きく分けて3つあり、頂枝、側枝ともにすべて両性花のもの(下図のA)、頂枝はすべて両性花で側枝はすべて雄花のもの(下図のD)、そしてその中間とも言える頂枝はすべて両性花で側枝の一部が雄花となっているもの(下図のB、C)が見られました。側枝の一部が雄花のものについては、下位に位置する側枝の先端部に雄花が出現し、より下位の側枝へいくほど雄花が増えるケース(下図のB)と、上位の側枝の花はすべて両性花だが下位の側枝はすべて雄花となっているケース(下図のC)が見られました。おそらく、雄花の分布は下位の側枝の先端部から基部へ、そして下位から上位の側枝へと段階的に現れ、頂枝ではすべての花が両性花となるものと思われます。調査個体数が少ないためはっきりしたことは言えませんが、両性花/雄花の分布と花序のサイズ(側枝数や花数)の間に目立った傾向は見られませんでした。ただ、雄花は両性花に比べて開花日が遅いようです。よって、バイケイソウ花序内での開花の順番は、最初に頂枝および側枝の基部から両性花が咲き始め、その後、側枝先端部や下位側枝の雄花が咲くものと思われます。
バイケイソウの雄花は雌ずい(子房も?)が発達しなかったことによって形成されるものと思われます。バイケイソウの花の雄性/両全性が花芽形成のどの段階で決定されるかは情報を持ちあわせていないので不明ですが、おそらく、栄養状態や植物ホルモンによる制御などが影響しているものと思われます。バイケイソウの花は虫媒によって受粉するので、多くの媒介者に花粉を運んでもらい多くの花が受粉することが重要となります。そのためには、個体当りの花粉量を増やすために雄花をつけたり、媒介者を誘引するために花数を増やしたりすることが有効なのでしょう。開花まで相当の年数が掛かり、しかも開花個体の少ないバイケイソウがコストをかけて結実しない雄花をつけるということは、バイケイソウの生殖戦略にとって何かしらメリットのあることなのだと思われます。
バイケイソウの両性花/雄花の分布については今後も調査を進めていく予定です。
バイケイソウの花序を模式的に表した。紫マル(●)は両性花を水色マル(●)は雄花を示している。実際には、頂枝に20〜30個の花がつき、側枝には10〜17個の花がつく。側枝の数は9〜12本ある。両性花/雄花の分布パターンとしては、A)頂枝・側枝ともにすべて両性花、B)頂枝と上位の側枝はすべて両性花で、下位の側枝の先端部に雄花がつき、下位の側枝ほど雄花の数が増える、C)頂枝と上位の側枝はすべて両性花で、下位の側枝はすべて雄花、D)頂枝はすべて両性花で、側枝はすべて雄花、とに分類された。
(2008年7月 箱根にて調査)
Posted 21 July 2008