その2 北のバイケイソウは早く開花する?
2008年6月中旬に北海道の礼文島と野幌森林公園へ植物観察に行きました。礼文島では草原に咲くバイケイソウが、野幌森林公園では林床に咲くバイケイソウが丁度花を咲かせていました。どちらもほとんどの花が開花しており、すでにおしべの花粉がなくなっていたので、開花から大分たっている花のように思われました。それから10日ほどして定点観察をしている箱根のバイケイソウを見に行ったのですが、こちらのバイケイソウは花序は発達してきているのですが、蕾はまだ固く開花まではまだしばらく掛かりそうな様子でした。
礼文島の草原に咲くバイケイソウ(2008年6月13日) 野幌森林公園の林床に咲くバイケイソウ(2008年6月15日)
箱根の林床のバイケイソウ(2008年6月25日)
例年、北海道のバイケイソウは6月に開花し、箱根のバイケイソウは7月に開花します。おそらく、バイケイソウの花芽は新芽の出る前の年のうちに形成されていると思われますので、開花時期は植物の成長速度に依存していると考えられます。バイケイソウの新芽の成長開始は雪解け時期や気温の上昇を考えると北海道より箱根のほうが早いと思われますが、開花は常に北海道のほうが先行します。しかも、箱根と同じく林床に成育する野幌森林公園のバイケイソウでも箱根より早く咲きます。
桜前線のように、花の開花は南の温かい地方から始まり北上してゆくのが普通ですが、バイケイソウの場合は開花前線が南下していくのでしょうか。北海道と箱根の間の東北地方のバイケイソウがいつ頃開花するのか、箱根以南の、例えば東海・近畿地方のバイケイソウがいつ頃開花するのかは、情報を持ちあわせていないので、実際にバイケイソウ前線の南下ということがあるのかは判りません。このことについては、今後の調査が必要でしょう。
北海道のバイケイソウと本州のバイケイソウの遺伝学的な解析については、加藤ら(1996)による日本産シュロソウ属の葉緑体DNAの制限酵素断片長多型分析の調査結果があります。それによると、本州(関東から近畿地方)産のバイケイソウと北海道、中国地方、四国、九州(および韓国、オーストリア)産のバイケイソウでは最節約系統解析において群が異なるとしています。遺伝的変異については核やミトコンドリアゲノムについての解析が進みさらなる解明が期待されるところですが、開花時期の違いも何らかの遺伝的変異によるものなのかもしれません。
参考文献
Kato H, Yamada K, Ueda M, Takahashi H, and Kawano S (1996) Chloroplast
DNA variations in Veratrum L. (Liliaceae) based on restriction site analysis. Acta Phytotax. Geobot.
47:203-211.