その17 2024年度北海道バイケイソウ花成個体数調査

バイケイソウ花成個体数の定点観察を行なっている北海道の4つの調査地での2024年度の調査結果を考察します。4つの調査地では、2022年に花成個体数が大きく増加し、2023年に花成個体数が著しく減少という点で一致していました。しかし、2024年度は、礼文島とベニヤ原生花園の草原生バイケイソウは花成個体数が2022年と同程度にまで増加しましたが、旭川と野幌の林床生バイケイソウは2023年と同様に非常に少ないという二極性を示しました。


1. 礼文島(桃岩展望台コース) 調査日:2024年6月16日

礼文島の定点観察地では、2022年に多くの個体の開花(310個体)が見られましたが、2023年は花成個体が僅か2個体しかありませんでした。しかし、今年はこれまでの調査(2016年~)で最も多い、397個体の花成個体を確認しました。この観察地点ではほぼ一年毎に花成個体数が多い年と非常に少ない年を繰り返しています。





今年の礼文島はバイケイソウ花成個体が多かった


2. ベニヤ原生花園(プリンセス通り) 調査日:2024年6月17日

ここでの定点観察は2019年から行なっており、2022年に非常に多くの花成個体(1万個体以上)が見られ、2023年は花成個体が非常に少なかった(17個体)のですが、今年は2022年と同程度の多くの花成個体が見られました。したがって、花成個体数が多い年・少ない年をほぼ1年毎に繰り返しており、しかも、多い年と少ない年は1000倍程度の差があるという極端な変動を示しています。今回、遊歩道近くの観察しやすい集団を見ると、花成していない個体も結構あり、花成個体は全個体の3~4割程度であることが判りました。調査エリアをくまなく調べたわけではないのではっきりしたことは言えませんが、花成個体が多い年であっても花成していない個体も相当数あるようです。





ベニヤ原生花園では、花成していない個体も結構見られる


3. 旭川(突哨山) 調査日:2024年6月19日

ここの定点観察地では、2013年と2022年に多くの個体が花成し、それ以外の年の花成個体は0~5個体程度だったのですが、今年は17個体が花成しており、一斉開花年(2013年、2022年)以外の年としては花成個体数は多いほうでした。2022年の花成個体数(121個体)は、2013年の花成個体数(257個体)と比較すると少ないことから、炭素資源が蓄積して花成するポテンシャルのあるような個体が2022年に花成せずまだ残っているのかもしれません。今年花成した個体は、群生地の中でも木漏れ日が林床までさしているようなところに生えている個体のように感じられましので、炭素資源の蓄積や環境要因が群生地内で局地的に異なることで花成したのかもしれません。



 

花成している個体は木漏れ日の差すようなところに生えていた


4. 野幌森林公園(瑞穂連絡線) 調査日:2024年6月18日

ここの定点観察地では、昨年(2023年)は、前年の一斉開花の反動で花成個体がわずか一個体しか確認できませんでしたが、今年は17個体が見られました。しかしながら、花成した個体は花序の発達が途中で止まって褐変しているものが多く見受けられました。おそらく、植食性昆虫による花序茎の食害を受けたものと思われ、今年花成した個体による種子生産は殆ど期待できないと思われます。





花成個体の花序は褐変しているようなものが多く見られた


生育環境の違いから、礼文島とベニヤ原生花園の定点観察個体群を「草原生バイケイソウ」、旭川と野幌の個体群を「林床生バイケイソウ」としています。異なる地域の個体群であるにもかかわらず、草原生バイケイソウと林床生バイケイソウは、よく似た花成個体数変動パターンを示します。したがって、礼文島とベニヤ原生花園、旭川と野幌のバイケイソウ個体群は、両生育環境で共通している何らかの要因・因子によって花成誘導されているのではないかと思われます。草原生個体群と林床生個体群は、2020年、2021年と花成個体数が少ない年が続き、2022年の花成個体数が大幅に増加し、続く2023年に花成個体が大幅に減少した点で変動が一致したのですが、2024年は草原生個体群は花成個体数が多く、林床生個体群は花成個体数が少ないままとなり、両極端に二極化しました。草原と林床では、受光量の違いから年間の炭素源蓄積量に差があり、個体の資源量が花成するために必要な量に回復するまでにかかる時間は草原生集団のほうが短いとは思います。ですので、単年資源蓄積量に応じて、草原生個体群は短い間隔で一斉開花、林床生個体群は一斉開花するまでに数年を要し、2022年と2023年の花成個体数の変動は、草原生個体群と林床生個体群で偶然一致したということなのかもしれません。また、2019年は礼文島個体群の花成個体数は多かったが、ベニヤ原生花園個体群の花成個体数は少なかったことから、両群生地の草原生バイケイソウ花成個体数変動も偶然一致しているだけかもしれません。これまでの観察で林床生個体群の一斉開花は2回しか見ていませんし、草原生バイケイソウ定点観察もデータ量として十分とは言えませんので、花成周期の規則性を見るためには観察の継続が必要であると思います。



また、今年のベニヤ原生花園での観察で、花成個体数が多い年であっても花成していない個体が結構あるということが判明しました。したがって、草原生バイケイソウの隔年での花成個体数の変動は、個体群の中の一部の個体の花成によって引き起こされていると考えられます。一方で、バイケイソウは実生が生長して花成するまでに数十年かかると言われていますので、花成していない個体は花成に至らない若い個体である可能性もあります。今までの観察では花成個体数のみを観てきましたが、未花成個体を含めた観察も必要であると感じました。

Posted 27 December 2024

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