2016年から定点観察を行なっている箱根のバイケイソウ個体群の花成個体数調査ですが、2023年はこれまでで最も多くの花成個体が見られました。したがって、本年、箱根の調査個体群でバイケイソウの一斉開花が起こったと判断しました。この調査地は、2020年も花成個体が多い年だったのですが、2023年はその時の約2倍の花成個体がありました。箱根では、芦ノ湖西岸の三国山山中の標高の異なる3ヶ所の個体群で定点観察を行なっており、いずれも生育環境は林床です。したがって、北海道での私の定点観察地である野幌や旭川と同じ環境下にあるバイケイソウ個体群です。





北海道では2022年に一斉開花が見られ、その年の箱根は花成個体が少ない年でした。よって、箱根の調査個体群は北海道から一年遅れて一斉開花したことになります。バイケイソウの一斉開花は、温度等の環境要因によって引き起こされるとされていますので、北海道と箱根の群生地の気象データ等を精査することで一年ずれて一斉開花を引き起こした花成誘導要因が解明できるかもしれません。ただ、2023年以前の花成個体数の変動を見ると、箱根では2017年と2020年が一斉開花年に次ぐ花成個体数を示し、同年に野幌や旭川においても比較的花成個体数が多い年となっていました。よって、2020年までは箱根と北海道で花成個体数の変動が同調していたようにも見えます。


                  箱根、野幌、旭川におけるバイケイソウ花成個体数の年変動

太字は一斉開花、赤太字は一斉開花に次ぐ花成個体数を示す。


今年花成した個体の中に、2018年および2019年に花成した個体の子ラメットが含まれていました。この年は花成個体数が少ない年でしたので、今年の一斉開花は、前回の一斉開花(年は不明)で花成した個体が再び同調して花成したといった単純なものではないと思われます。おそらく、花成できるだけの資源量が確保できていた(花成の準備ができていた)個体が花成誘導のトリガーとなる環境要因に応答して花成し、今年はそのような個体が多かったので一斉開花となったということなのかもしれません。逆に言えば、一斉開花年ではない年に花成した個体は、どのような要因がトリガーとなって花成したのでしょうか。資源量が十分に確保できたので、栄養要因により花成が誘導されたのでしょうか。

来年、2024年は箱根調査地のバイケイソウ花成個体数は非常に少なくなると予想されますので、そのあたりを検証したいと思います。

Posted 25 December 2023

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バイケイソウ考

その16 2023年度箱根バイケイソウ花成個体調査