2022年6月に実施した北海道でのバイケイソウ花成個体数調査の結果をまとめて報告します。先に結論を述べると、2022年は私が調査している礼文島、ベニヤ原生花園、旭川、野幌の4地点で多数の花成個体が確認できました。特に、旭川と野幌は2013年以来の9年ぶりの一斉開花となりました。以下、各調査地ごとに結果を述べます。

1.礼文島(草原バイケイソウ)
礼文島の草原生バイケイソウの定点観察は2016年から行なっており、1~2年周期で花成個体数が変動していました。2022年は花成個体が多い年となり、2019年と同程度の花成個体数がありました。




2.ベニヤ原生花園(草原バイケイソウ)
ベニヤ原生花園では2019年から定点観察をしており、2020年に多くの個体が花成したことを確認したのですが、2022年はそれをはるかに上回る個体が花成しました。したがって、2020年の花成個体数はたいして多くはなく、今年がこの調査地での一斉開花に相当していると考えられます。




3.旭川(林床バイケイソウ)
この調査地は2013年に多数の個体が花成して以来殆ど花成個体が見られず、2021年は花成個体はありませんでした。今年は9年ぶりに多数の個体が花成しました。花成個体数としては2013年の半分程度ではありますが、その他の年の花成個体は極僅かであったので、今年は一斉開花といってよいと思います。




4.野幌(林床バイケイソウ)
この調査地も旭川の林床生バイケイソウと同様に今年は2013年以来の一斉開花となりました。花成個体数は2013年の2倍程度ありました。




5.兜沼(林床コバイケイソウ)
この調査地では2019年に多数の花成個体が見られました。2020年、2021年は花成個体数が非常に少なかったのですが、今年は少し増加し、2016年、2017年と同程度になりました。




上記結果のように、2022年の北海道の調査地でのバイケイソウ花成個体数は、草原においても林床においても例年になく多くなりました。特に、旭川と野幌はどちらも9年ぶりの一斉開花となりました。両調査地での花成個体数の増加が、共通する環境要因が引き金となった一斉開花によるものなのか興味が持たれるところです。ちなみに、バイケイソウの実生が花成するまでに40年以上かかるとされているので、2022年の一斉開花は2013年に開花した個体の種子由来の実生が成長して開花したものではないと考えています。花成したバイケイソウの主茎は枯れてしまい、株元に1~3個のわき芽(子ラメット)ができます。以前の箱根での調査で、花成個体の子ラメットが花成するまでに9年かかっていることを確認しているので、今年の花成個体は2013年に花成した個体の子ラメットに由来しているのではないかと思われます。そうであるならば、野幌では2013年花成個体の子ラメットが2倍にクローン増殖して今年花成したと言えます。旭川では今年の花成個体数が2013年の半分となっているので、子ラメットの半数以上がこの9年間で枯れてしまった、もしくは来年以降に今年花成しなかった個体が花成するのかもしれません。

北海道での調査の度に札幌の北大植物園に植栽されているバイケイソウが花成しているかを2015年から観察しています。この植栽個体は2010年に花成したところを見たことがありますが、それ以来花成を見ていません。植栽されている花壇は広葉樹の日陰となっており、林床と同じような光条件になっています。旭川や野幌の林床バイケイソウが一斉開花したので、植物園の個体も花成するのではと思ったのですが、花成していませんでした。自然の林床と植栽では様々な条件が異なっていると思われますので、自然環境と同じような花成周期とはならないのかもしれません。

礼文島調査地では1~2年周期で花成個体の変動が見られています。この調査地に自生しているバイケイソウの総数を把握していないので、各年度の花成個体数が調査地のバイケイソウ全個体数の何割に相当するのかは判りません。また、この群生地の花成個体の子ラメットが花成するまでに要する年数がどのくらいなのかも不明です。礼文島のバイケイソウは旭川や野幌の林床生バイケイソウ、さらにはベニヤ原生花園の草原生バイケイソウとは生育や花成の周期が異なっているために1~2年周期で花成個体数が変動しているのか、それとももっと大量の個体が花成する一斉開花にまだ出会えていないのか、そのあたりを解明するために定点観察を継続していこうと考えています。

兜沼のコバイケイソウは2019年に花成個体数のピークがあり、バイケイソウとは異なる変動パターンを示しました。この変動パータンは、サロベツ湿原センターでの湿原周辺のコバイケイソウ花成個体数の観察結果とほぼ一致しているようです。

Posted 8 Augast2022

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その14 2022年度北海道バイケイソウ花成個体調査