バイケイソウは2013年にほぼ全国的に一斉開花しました。開花した主茎は枯死してしまいますが、地下で形成された腋芽(子ラメット)が翌年から成長を始めます。子ラメットは1~3個形成されるので、複数の子ラメットが成長することによるクローン繁殖も起こります。よって、バイケイソウは花成することで種子繁殖とクローン繁殖の両方をすることになります。そこで、箱根と稚内で一斉開花の翌年のクローン繁殖について調査しました。
箱根で2013年に花成したバイケイソウ67個体について、2014年に出芽した子ラメットの数を調査したところ、子ラメットが1つ形成された個体は41個体で全体の61%、2つ形成された個体は23個体で全体の34%、3つ形成された個体は2個体のみ(3%)で、子ラメットの出芽が見られなかった個体が1個体ありました。平均すると2013年の一斉開花で花成した個体が2014年に形成した子ラメット数は1.39個となり、クローン繁殖によって個体数が1.39倍になったことになります。花成個体は翌年最大で3つの子ラメットを出芽させるとされていますが、3つの子ラメットを出芽させた個体は3%しかありませんでした。また、2014年に出芽した子ラメット数と2013年の花成個体の形質(草丈、花枝数、さく果数)との間には特に相関は見られませんでした。したがって、一斉開花時の個体の成長量と翌年形成される子ラメット数との間に関連はないということになります。これは2014年に出芽する子ラメットの原基は2013年よりも前に形成されており、2013年の個体成長量はその年の光合成等による資源獲得量に依存しているということなのかもしれません。また、一斉開花のような半ば強制的に花成した場合には翌年の子ラメット形成の準備が十分に出来ていない個体でも花成しているのかもしれません。以上の結果から、一斉開花後のクローン繁殖で子ラメットを3つ出芽させる個体は少なく、個体数の増加は1.4倍程度であることがわかりました。一斉開花年に花成しなかった個体も多数存在していますので、一斉開花後のクローン繁殖でバイケイソウ群生地全体の個体数が大きく増加しているわけではいないと思われます。
稚内海岸草原では2013年に多くの群生(クローン繁殖で増えたと思われる個体集団)が一斉開花を起こしました。群生内での花成個体数は様々で、全個体が花成した群生もあれば、少数の個体しか花成しなかった群生もありました。群生の規模(個体数)と花成個体の割合に相関は見られませんでしたが、平均すると、花成した群生での花成個体率(花成個体数/群生個体数)は60%となりました。2013年に一斉開花したバイケイソウの19の群生について、花成個体数と2014年の出芽個体数を比較したところ、最も個体数変化の少なかった群生は0.94倍(33個体から31個体に減少)で、最も大きかった群生は1.92倍(12個体から23個体に増加)となっていました。個体数変化の少なかった群生は2013年に33個体中18個体が花成し、個体数変化の大きかった群生では12個体中8個体が花成しましたので、花成個体が翌年に出芽させた子ラメット数として計算すると、個体数変化の少なかった群生では平均して0.89個の子ラメットを出芽、個体数変化の大きかった群生では花成個体が平均2.38個の子ラメットを出芽させたことになります。花成した19の群生で平均すると、群生の個体数増加は1.40倍、花成個体の形成した子ラメット数は1.59個となります。個々の群生の規模と個体数増加率や花成個体の平均子ラメット数との間には特に相関は認められませんでした。
以上の結果が示すように、箱根の林床のバイケイソウも稚内の草原のバイケイソウも一斉開花によるクローン繁殖は個体数を1.4倍程度増やしていることになります。一斉開花といってもバイケイソウ群落の全個体が花成する訳ではありません。箱根での数字は判りませんが、稚内草原での花成個体率は60%ですので、半数の個体が花成したとして、それらが1.4倍に個体数を増やしたのならば、群落全体としては個体数が 0.5×1.4+0.5 で1.2倍になったという計算になります。これは個体数増加としてはそれほど大きい数字ではないと思われます。しかし、種子繁殖で実生から花成個体となるまでの個体生存率(正確な数字は判りません)や年月(実生が花成個体となるまで数十年かかると言われています)を考えると、クローン繁殖は個体数を維持、微増させる意味で効果はあると考えられます。
Posted 15 November 2014
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