ダーティヒロインたち(2) 危険美女刑事編

 

  暴力、あるいは銃器の使用が公認された職業、警察官。
危険な職業の代表と言える。これに若い女性を当てはめると婦人警官と
いうことになるけれど、ちょっと身近かに過ぎてドラマ性がない。
色気もない(駐禁でやられたご仁はまた、この感ひとしおだろう)。
「婦警さん」を主人公にした青年漫画が余りないことは、そのリアルっぽさ
が災いするのか、なかなか制約が多くて困難なものらしいことを示している。

  しかし「女刑事」はどうだろう。
婦人警官という言葉が、多少野暮ったく聞こえても何となく平和な、
散文的な(庶民的な、か?)感じであるに対し、女刑事(刑事も警官<刑事巡査>で、
つまり彼女は“婦警さん?の一人なのだが、まず実在はしないだろう)といえば、
(不思議なことだけれど)全く対照的な、女侠客にも近い、
いやそれ以上にやさぐれた印象を持つのは私だけだろうか。
悪と対恃するには彼等以上に悪に徹する必要があると言わんばかりの
娯楽読み物の中の刑事たち、ことにアダルトっぽいこの手のヒロインたちが
活躍する小説群がこのテーマで書かれていることも影響しているのかもしれない
(私は全く読んだことがないのだが)し、こんな設定自体破天荒なことは確かだけれど。

  そんなことをなんとなく思っていたら、何と、出ていた。
婦警さんの青年漫画「警視総監アサミ」。ストーリー近藤雅之
画有賀照人 集英社BJコミックス  麻美巡査は警視庁捜査一課に配属されて
間がない、駆け出しのミニスカートがよく似合うキュートな制服刑事で、
同僚の若い青年原田とコンビで事件を追う。
その上司には彼女が憧れている凄い美女の萬田警部補や、
彼女を昇進を餌にセクハラの餌食にして、いいように慰んでいる
情けない俗物エリート下山警部などがいる。
アサミ自身下山に、死体のあがった川の水中捜索をビキニ姿になって
やれと言われたり、柔道教練で脱がされたり、嫌がらせを受けるのだけれど、
持ち前の明るさと聡明さでそんな上司を出し抜いて、手柄を重ねていく。
事件などのデテイルも結構しっかりまとめられていて、なかなか痛快な
筋だてだし、何よりもヒロインのアサミ(可愛くて、強くて、賢くて、セクシーで、
仕事も出来る、いずれ警視総監になるのだろうか?)の魅力は特筆出来る。
特に超ミニのフレアスカート(こんな制服があったか?)でのアクションは最高。
ただし、あちこち結構必然以上にどぎつくて、アダルト指定。

  とまれ、女殺し屋が横行するコミック界に、
理に照らせばその対極的存在である筈の女コップも興味本意で、
彼女たちと似通ったカラーで描かれるのも、また必須なのか、と
思っていたけれど、こんな(明かるい?)切り口もあったのかと
目を開かせられた一品。当面1、2巻刊行済み進行中。
(3巻も’01.2に出た由
  追記)

 

  美人刑事がやぶれかぶれな活躍をすることでは
前記の比ではない。
「でぃすぱっち」講談社アッパースKC
こばやしひよこと皆殺死FACTORY 
ちょっとあぶない成人向けの表現がいっぱいの大手出版社コミックスにも驚いた
(前出は集英社、これは講談社、大手出版社も生き残るためにはなりふり構わず?)けれど、
これは当今の傾向なのだろう。われわれアダルトとしては大歓迎なのだけれど、
多少はひるむ面もある。要はその必然性と洗練度の問題で、
世には余りぞっとしない作品も沢山出回っていることは事実だ。
表現の自由という言葉を使うのが気恥ずかしくなることもある。
単に成人指定マークをつければよいという問題でもないだろう。

  もっとも、そんな見るのが辛いもの、
買うのが気恥ずかしいものでも需要はあって、
商売になるからこそなくならないのだろうけれど、やはり出版するならば
一定の洗練度は押さえたいし、まして成人指定のマークをつけない以上、
作品としても水準は越えて戴きたいのが私の希望だ。

  それで「でぃすぱっち」。講談署刑事一課に新たに配属された
若い巡査刑事中嶋耕平についた美人で敏腕、歴戦の名刑事とされる指導教官
うら若き霧島アツコ巡査部長の迫力に度胆を抜かれる。彼女のセクシーさ、
目が覚めるような捜査能力、逮捕術、強引さがまことかっこいいことこのうえない。
漫画でなければとても表現出来ないきわどさがこの作品の売りだろう。
おまけに愛くるしい鑑識担当のくみ子巡査は死体フェチで露出狂、
更にファイル2の被害者太田に心を寄せていた立花嬢もからんで華やかな
殺人推理劇が進行する。これは意外にしっかりつくられたまじめな
艶笑警察推理ドラマなのである。もっとも、二巻目になると疑似実録の
お手軽猟奇犯罪もので、アツコ刑事の身体を張っての人質犯対策も
行き着くところまでいってしまうし、果てはは自爆してフリーになっちまう
(また戻るが{笑})。難事件もあっけなくお茶をにごされて完結になってしまう。
絵柄など(特に美人は)なかなか魅力があるのだから、最後まで手を抜かず、
ドラマ作成にはひねりを入れてほしかった。

 

  アダルトっぽいのが続くけれど「弾」(アモウと読ませるらしい AMMUNITION 弾薬の意)山本貴嗣  プラザコミックス蒼竜社  長い髪(珍しいと思ったらこれはフェイク。
作者の好みは断然ショートらしい)にシルクハット、
やたら童顔で銃の名手女刑事天羽弾が日頃手懐けているけちな情報屋から
自分の生パンティと引換えに(何だ、この裏ビデオばりのふざけた設定は)
ガセネタを貰おうとして別の凶漢に撃たれる。犬丸というサブの若物がいるが
何の役にも立たないのは前記「アサミ」「でぃすぱ―」などの設定とそっくりだ。
彼女は若い女ばかりを射ち殺す猟奇犯を追っていてこの凶行に遭った。
左胸、そして腹部に2つの弾を受けて死ななかったのは幸運としかいいようがないけれど、
その瀕死の身体のまま彼女は病院のベッドから悪漢に誘拐されて散々いたぶられ、
犯される(でも死なず、結局逆転する)。こんなサディスチックな場面が冒頭から延々と、
全編の1/3近く続くのである。
悪趣味といえばそれまでだけれど、臆面なく書きたいことを書き、
徹底して淫するところがこの作者の持ち味なのだろう。ちょっとあの異色作「剣の国のアーニス」
(もちろん山本貴嗣MGコミック大日本絵画)を思い出した。
(美しい妖精でめっちゃ強い一匹狼の暗兵=スパイの造語の積もりか。山貴の新造語=アーニスが、腹を切り裂かれ
内蔵を噴出させながらも敵陣に乗り込んで凄絶な闘いを続ける。
これだけで全編の2/3近い!分量があった)。
それはさておき、この(「弾」)漫画のみどころは実際前段1/3あたりがピークで、
二話以降も催淫剤の売人とか麻薬とかどぎついテーマ、派手なあくしょん
(これは絵になっている)はあるけれど、単に瑣末主義とどたばたばかりで
出来上がっている感じ。もっとも、ヤマモトマニア(私もそう)なら
ヒロインや脇役の女たちの色っぽい景色を楽しむ以外にも、前半分の責め場など、
みどころは幾つもあるわけだけれど。

 

  アメコミを入れるのはどうかと思うけれど、とりあえずタマ不足の折りから致し方ない。
ニューヨーク市警殺人課の美人刑事サラ・ベッチーニ24才、173mm,60kg←帯つき

はギャング連中にも名の知れたこわもてデカだ。
冒頭から私情にからめて麻薬密売の巣窟へ、そのグラマラスな肢体を
超ミニのワンピースと同色の真っ赤なエナメルブーツで決めて殴り込む。
つまり「ウイッチブレィド」マイケル・ターナー作デンゲキコミックス潟<fィアワークス発行四巻物(未完)。
この中世から飛んできた超時空の防具にして無敵の凶器は、
持ち主として凶器自身に選ばれたサラの裸身にぴたりとまつわり着いて、
彼女の重ねての絶対の危機をカバーし、瀕死の重傷を負った彼女の体を
不死身に変身させる。冒頭からハチゃめちゃで勝手きままな筋立て、
その割りに物語は平板、それ以上のものはなく、余りに飛躍しすぎて
(アマゾンの中の秘密結社の工場内へ誘拐されたサラ、密林へ逃れ出る…)
四巻で行き詰まり、話途中で切れてしまった。まあ、キュートな彼女の、
露出過多なコスチュウムと見事な肢体(これが米人好みなのだろうか、
思いきりデフォルメされたスレンダーなグラマー)を眺めるだけで楽しいし、
やたら怪我をして死にそうになるサービスも人気の秘密かもしれない。

 

  「薔薇のレクイエム」松森正橋本一郎サン出版ジョイコミックス
美鬼リリィ、警視庁次官直属の対テロリスト対策官
ワンマンアーミーとも、刑殺官とも、電子頭脳をもった猟犬とも言われる
才色腕力トリプル兼備の辣腕女性警官(?)。ベトナム戦争たけなわ時、
拉致された米軍の将官だった恋人を救うために死地へ潜入し、
結局廃人となったその男を自らの手で殺すはめになり、それが彼女の
非情で果敢な行動を取らせる原点になったことが巻中「新『薔薇のレクイエム』」
最後の挿話で語られる。橋本一郎の原作は「薔薇のレクイエム」スイス銀行の
睡眠口座詐取の事件から始まってもっぱら国際事件ばかり、
美女コップ美鬼の強引でスマートな事件解決を四編、多少偽悪的に積み重ねていく。
その続編(回顧編)の「新『薔薇――』」5編、それに姉妹編らしい
薔薇のオラトリオ」一編中でそれぞれ彼女を一貫して活躍させ、
ひとつの作品としてまとめた。最初の四編が中では整った
ハードボイルド活劇になっているけれど、その最後、単行本の半分にもならず
ヒロインは死ぬ(あれっ!?)。それに続く「新『薔薇』」は、内容や作者の
絵柄から言って、やはりそれ以前の出来事のようであり、むしろ
「旧薔薇―−」と呼ぶべきだろう。最後に収められた「レクイエム」は
美鬼のアメリカ滞在中のエピソードであり、筋の流れとしては
最も初期になるのだろう。こんなことをぐだぐだ書くこともないのだろうけれど、
この作品はリリィ美鬼の心の遍歴を逆に辿っていったという体裁になっているわけで、
じっくり読み直してみればそんな作者のたくまざる意図が分かって面白いのだけれど、
やはり最初はどうも途中から混乱してしまう読者も多いと思う。
全然異質なドラマが混在する感もなくはない。
松森正の絵柄が中で度々変化していることもあるわけで、
それも悪くはないと思うけれど。もっとも、松森の絵はどこを見ても
パーフェクトである。美女は華やかで全く魅力的だし、
スピード感あふれるアクションや脇役、モッブ、背景、
どこを見ても存在感があり美しい。彼の絵を眺めるだけでも
この漫画は一見以上の価値がある。蛇足ながら、
この作の十年後H4年に出版された「レディーコップ」スタジオシップ劇画キングシリーズ
はこの本を再構成し、これには入らなかった二つの「「薔薇のレク―」シリーズものを
織り込んだ再版である。この方が構成は自然になっているし、
例によって作者の見事な表紙絵も楽しめる。もっとも、ファンならずとも、
二つは全く別の著作かと思って飛びつく向きもあるのではないか
(私もひっかかった)。

 

  「危険なジル」松久由宇工藤かずやSPコミックスリイド社全2巻 
ジル・ランディはニューヨーク20分署の美人警官。
恋人の同僚と一緒に踏み込んだ危険な現場でショットガンの洗礼を受け、
男は死に、自身も瀕死の重傷を負う。頭に受けた傷が元で以後
どんな怪我にも苦痛を感じない躯(不感症?)になり、そのくせ色情狂にもなる。
以後、目前で恋人を失ったショックもあって、
その不死身の身体を武器に危険な現場へやけっぱち気味に生身を晒し、
弾雨をものともせず敵に肉薄する。時には高級娼婦に身をやつして
秘密クラブへ潜入する。工藤かずやにしては大味な二巻もので、
特に二巻目はドラマらしいドラマもなく、一旦普通の身体(痛みを知る)
になったジルが、恩人夫婦を非情に殺されてそのショックで元の身体に戻るなど
乱暴な部分も多い。これはわが屓筋の松久由宇作品なので取り上げた面もある。
松久は池上遼一をしのぐほどの画力、端正な、バタくさい美人を得意とするけれど、
いかんせん原作に恵まれない。自作にこだわるせいだろうか(無理だろう)。
だれか、松久由宇にぴったりの原作を知りませんか。


  美女刑事となると、やはりこれは挙げないわけにはいかないか。

 

 
「ワニ分署」篠原とおる集英社プレイボーイコミックス全12巻。
謎の暴漢に弟を殺されたミカは、迷宮入りとなったその犯人を追求する目的で、
警視庁の裏目付的な活動部署の82(ワニ)分署へ志願して配属される。
そこで先輩格のリンと知り合い、様々な難事件をこの絶妙なコンビで解決していく。
作者のスケールの大きな構想力、興味深いテーマと状況の設定、
サスペンスを盛り上げていくいつもながらのテクニックには感心する。
もっとも、最初からのテーマを引っ張りすぎて余りに長くなり、やや中だれした。
緊張感と興味で読ませるのも5巻まで。やたら無意味な裸が多くなるし、
好脇役リンを最後に死なせるのも無意味ではないか。
以下のことを書くのは、この舘の趣旨にはずれるのだけれど、
残念ながら、作者の手腕は多くのヒロインものではなく「刑事あんこう」全22巻で
最高度に発揮されているように思う。

 

  女コップからはずれるのだけれど、
ちょっと珍しい設定「グッドバッドママ」全3巻

萩原玲二 講談社ミスターマガジンKC
は過去に女泥棒の肩書きを持つナイスバデイのこぶつき30ウィドウが
生活苦からガードウーマンになって諸悪とハードな対決を繰り返す、
はちゃめちゃな設定。
しかし萩原レイジー(LAZY−狂気)は過去いつも現実から甚だしく遊離した
漫画ばかり書いてきたのではないか。この作品はまだ、ありそうにない設定と
夢(悪夢)のようなドラマではあるけれど、一応現代社会(日本のように思える)
を舞台にしていることが救いといえば言える。ま、私の価値観からいえば、
魅力的な女主人公が、どきどきするような活躍をしてくれれば、
それで最高なのであって、この作品はほとんど羽角揺子ひのえうまの
魅力で持っている漫画である。様々なコマ割りの大胆な実験も楽しい。
アクションはスピードがあり、とても絵がうまいとはいえないけれど、
個性的で魅力のある作家ではある。

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