日産NAPS考察


NAPS(Nissan-Anti-Pllution-System) とは、昭和50年、昭和51年、そして初期の昭和53年自動車排出ガス規制適合車に使用された、日産の排ガス規制対策の総称である。この時代の車は、排ガス規制に対応するため、軒並みパワーダウンした。本コラムでは、NAPSによるパワーダウンの原因と対策を考察してみる。

スカイラインで言うと、ケンメリ後期型(C111)とジャパン(C210/211)がNAPS対象だったね。

C111:昭和50年規制に対応 (後に昭和51年規制にも対応)
C210:昭和51年規制に対応
C211:昭和53年規制に対応

それぞれの規制値が具体的にどうだったかを示したのがこれ。
 

平均基準値
CO(g/km)
HC(g/km)
NOx(g/km)
昭和48年規制
18.4
2.94
2.18
昭和50年規制
2.1
0.25
1.2
昭和51年規制
0.6/0.85(車重1t以上)
昭和53年規制
0.25
平成12年規制
0.67
0.08
0.08

上表をよく見て欲しい。2つの特長がある。

その1:

昭和53年(1978年)規制は、平成12年(2000年)まで、20年以上も施行された。この間、技術の進歩で、日本車は目覚しい進化を遂げた。ところが、そんなに進歩した技術でも、平成12年規制をクリアできないため、RX-7やス−プラが生産終了となった。スカイラインも直列6気筒ターボとお別れした。それだけ平成の規制はシビアなんやろうね。

その2:

COとHCの規制値は、昭和50年規制から(平成12年まで)変化してない。NOxの規制値だけが、段階的に厳しくなったという特長もある。

次に、スカイラインの開発者、伊藤修令氏の発言を紹介する。

「当時はマスキー法による51年規制、すなわち排ガス対策が大変でした。HC、CO排出量を1/10以下にしなければならなかった。これらはうまく燃焼させれば解決できるんですが、厄介なのがNOx、特にジャパンはNOx対策で大変でした」

これは10年以上前、岡谷のスカイラインイベントで、氏から直接伺ったもの。当時、何気なくメモってたんだが、今考えると伊藤氏の言葉は、NAPSの全てをまとめている。さらに言えば、NAPSで何故パワーダウンしたのかがよく分かる。順番に整理すると、

「HC、CO排出量を1/10以下にしなければならなかった。これらはうまく燃焼させれば解決できる

HC、COの規制は、昭和50年。この時スカイラインは、ケンメリ後期型(C111)。これは、キャブからインジェクションに変更することによって対処された。マニュアルで常にコンディションを調整しなければならないキャブから、春夏秋冬に関わり無く、常に最適の燃焼効率を求めた結果、インジェクション(EGI)化されたわけ。つまり、EGI化がパワーダウンの直接の原因にはなってない。燃焼効率を向上させた結果、パワーダウンするわけがない。

「厄介なのがNOx、特にジャパンはNOx対策で大変でした

これがパワーダウンの原因ということになる。じゃあ、具体的にどうNOx対処してたかを調べることにする。

EGR

結論から言うと、これがNOx対策&パワーダウンした原因。Wikiると、
 
排気再循環(はいきさいじゅんかん、英語:Exhaust Gas Recirculation)とは、自動車用の小型内燃機関において燃焼後の排気ガスの一部を取り出し、吸気側へ導き再度吸気させる技術(手法あるいは方法)であり、主として排出ガス中の窒素酸化物 (NOx) 低減や部分負荷時の燃費向上を目的として行われる。英語表記の頭文字をとってEGRと通称される。

内燃機関において、燃焼後の排気ガス中には酸素は含まれていないか、もしくは希薄な状態にある。この排気を吸気と混ぜると吸気中の酸素濃度が低下する。このことにより、大気より酸素濃度が低い状態での燃焼により、その(ピーク)燃焼温度が低下する。これによりNOxの発生が抑制される。

Wikiに書いてある通り、現行車におけるEGRは、「部分負荷時の燃費向上」としての役割のほうが大きい。現行車は、排気再循環量を全てコンピュータ制御している。このため、常にエンジン状態に最適な再循環量を調整することができる(いわゆるポンピングロスの解消)。ところが昭和50年当時、EGRをコンピュータ制御する技術なんて無かった。具体的には、吸気の負圧(バキューム)効果によって、排ガスを燃焼室に引き込んでいるだけ。

これは、C210のEGR部品図。インテークマニホールドの負圧で、EGRバルブが開き、排ガスを引き込んでいる。単純な仕組みやね。この単純さが大事なんだ。現行車のように、EGRバルブにハーネスが繋がれてないことがポイント。コンピュータによる信号制御が行われてないことがわかる。

ちなみに、これがC211のEGR構造。バルブが増えて、複雑になっている。また、図では分かりにくいが、パイプやノズルの口径もC210と比べて大きくなっている。要するに、C210と比べて、より多くの排ガスを循環させてるわけやね。これが「名ばかりのGT」の根幹。当時の技術では、より多くの排ガスを循環させることによって、NOxを減らすしかなかった。このため、

混合気の酸素濃度が下がる → 燃焼温度が下がる → パワーダウン

このような結果になったわけ。ちなみにあっくんは、C211を何台か試乗したことがあるが、NAだと3000回転超えると、全くといっていいほどエンジンが回らなかった。このため、C211はターボを搭載することによって、名ばかりのGTから脱出した。問題は、あっくんのC210。L20Eの真の実力を引き出すことができるかを考察する。

これは、C210のバキューム関連図。EGRパイプは、TVソレノイドというバルブに繋がっている。このTVソレノイドを介して、インマニに排ガスを戻しているわけ。この対策は簡単。EGRなんてC110 (前期ケンメリ) には搭載されてなかったので、単純にEGRバルブを外して栓すればいい。

これでEGRは死んだ!

だーれが殺したクックロビン♪

次にTVソレノイドの仕組みについて調べてみる。

これがTVソレノイドバルブ。(1)は、前述のEGRから排気ガスを吸込んでいる。「ソレノイド」と言うからには (1)か(2)、どちらかから常にエアを吸い込んでいる。前述の通り、インマニの負圧だけで制御しているから、

負圧が大きい高回転時は(1)
負圧が小さい低回転時は(2)

から吸い込んでいるはず。(1)は殺したので、今度は(2)を見てみる。

(2)のパイプは、途中で二股に分岐している。一方はスロットル機構、もう一方はTCSソレノイドと繋がっている。スロットル機構はEGI(電子制御)だから、負圧の情報を与えているのだろう。これは、このままでいい。問題はTCSソレノイド。

実車のTCSソレノイド写真に、パイプの行き先と(負圧による)エアの流れを示した。キャブに詳しい方は、

あっ!

と、気づくことがあるはず。そう、これは「バキューム進角装置」なんです。バキューム進角とは、インマニの負圧を利用して、走行中におけるスロットルの開閉をデスビに伝達し補正するもの。上昇するエンジンの回転数に比例して吸気マニホールドの負圧が強くなることを利用、デスビのダイヤフラムを動かして進角させる。

もう一度、TCSソレノイド写真をご覧ください。デスビから見て、インマニからのパイプの手前に(2)のパイプがある。繰り返しますが、(2)はEGR(排気再循環)の一部。つまり(2)は、インマニからの吸気(=バキューム進角)を殺しているわけ。エンジン低回転時、常にデスビに余計な負圧を与えているから、おそらく逆に「遅角」させていると思う(遅角による排ガス対策は、昭和48年くらいから行っていたと記憶している)。

従って、この対策も簡単。(2)のパイプを外して、ネジで栓して終わり!

これで本来のバキューム進角装置が生き返った。結果、1速、2速時にバキューム進角が効いて、ノッキングが解消され、パワーUPすることになる。ちなみにTCSソレノイドには、ハーネスが付いてるでしょう。配線図との照合結果、このハーネスは、ギアが1速、2速であることをバルブに伝えるものみたい。

以上、C210 NAPS(=昭和51年排ガス規制)におけるパワーダウン対策は、2つのパイプに栓するだけでいい。現行車なら、これらは全てコンピュータ制御なので、こんなに簡単にはいかないけどね。結果、

・加速力が増した(短時間で高回転域まで回るようになった)
・イエローゾーンまでスムーズに回るようになった(これまでは6000回転近くなると息継ぎしてた)
・(バキューム進角装置が復活したため)ローギアのノッキングが無くなった

と、いいこと尽くめでした。察するにNAPS昭和51年対策は、53年までの暫定処置だったんじゃないかな。本来のL20EポテンシャルをEGRによって、一部殺してただけなのだから。ともかくこれで、

名ばかりのGT脱出!(^^)v

P.S 車検時は元に戻しましょう。


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