藤沢周平:その1では、
途中で話題が大きく逸れてしまい失礼をしました。
「あなたが、ここで一人息巻いても社会は変わらないわよ。」
なんて、妻に言われて、冷静さを取り戻しています。
藤沢作品の魅力の一つは、
江戸庶民の生活を描いたものだと思います。
いわゆる市井ものというものです。
様々な商売をしている人々の日々の暮らしを描きつつ、
ちょっとした事件や問題に振り回されて生きている庶民の生活は、
そのまま現代社会の我々の生活に重なります。
「獄医立花登手控えシリーズ」、「用心棒日月抄シリーズ」も
医師や浪人が庶民の生活の間に入って活躍するために、
市井の様子がよくわかります。
当時の江戸の町の名前や橋の名前なども出てきます。
江戸のどこに繁華街や桜の名所があったかなども知ることができます。
そこで、暮らす人々の生業(ないわい)も様々です。
雪駄問屋、糸問屋、煮飯屋、定斎屋、引手茶屋、水茶屋、鍛冶屋、
絵草紙屋、小間物屋、檜物師、薬種問屋、筆師、口入れ屋、夜鷹、
彫師等々、挙げていったら切りがないほど様々な職種の人たちが
登場してきます。
話は変わりますが、
藤沢作品の中で、歴史上実在の人物を描いた小説があります。
歴史上実在の人物で、私がはじめに読んだものは、「一茶」でした。
これは衝撃的な小説でした。
一茶については、俳句を通してしか知らなかったものでしたから、
彼の私生活を知って、一茶観が大きく変わりました。
その人の実生活と芸術があまりにも大きくかけ離れていたので、大変幻滅を感じました。
話は脱線しますが、
作家の取り上げた歴史上実在の人物で、
その人物のイメージを大きく変えた最初の小説は、司馬遼太郎の「義経記」でした。
義経が戦(いくさ)の天才だったことを知りました。
同時に人間として
大きく欠けていた面をもっていたことも知りました。
「一の谷」「屋島」「壇ノ浦」と一気に平家を滅ぼした義経。
平家の意表をつく作戦と、電撃的な奇襲によって、
平家を滅ぼした最大の功労者になりました。
ところが、
頼朝に許可を得ることなく、朝廷から官位を受けてしまいます。
また、義経を担ぎ上げようとする一部の勢力に乗ろうとしたため、
兄頼朝に攻め滅ぼされます。
義経は、
何故に兄・頼朝が自分を嫌い捉えようとすることさえ分っていませんでした。
兄・頼朝はきっと自分を受け入れてくれるだろうと思っていました。
軍事の天才だった義経が、私生活では幼稚だったのはどこからきたのだろうか。
藤沢作品の歴史上実在の人物を描いた他の作品を挙げてみます。
「漆の実のみのる国」・・・上杉鷹山を取り上げたのもです。
17歳で出羽国:米沢藩主となった鷹山(治憲)は、
貧しく財政の逼迫している米沢藩を豊かにしようと改革を試みます。
今で言う地域産業を起こし、開墾や倹約を奨励していきます。
山形県のベニバナは今に引き継がれています。
「なせば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」
鷹山の名言のひとつです。
「漆の実のみのる国」
藤沢周平の絶筆となった作品です。
「白き瓶」・・・長塚節を取り上げたものです。
読むのに苦労しました。
「市塵」・・・新井白石を取り上げたものです。
今、読んでいます。
新井白石と言う人物について、私はかなり間違った先入観をもっていました。
日本史を通史程度にしか学ばなかった私は、
新井白石を江戸時代中期の儒学者としてしか知識がありませんでした。
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