■鈴木健也
・まんが家
・「蝋燭姫」(ろうそくひめ)全2巻


・「寒くなると肩を寄せて」短編集


・「伯爵家女中伝」1〜2巻挿絵


・好きな漫画
 沓澤龍一郎「親切」
 鶴田謙二「ベネチア」
 博内和代「チャックのある風景」
 久住昌之
 谷口ジロー「孤独のグルメ」
 ゆうきまさみ「機動警察パトレイバー」
 藤子・F・不二雄「ミノタウロスの皿」
 カリブ・マーレイ
 木崎ひろすけ  「少女・ネム」

・好きな小説
 麻生俊平「ザンヤルマの剣士」シリーズ
 冨永浩史「俺の足には鰓がある」
 新城十馬「蓬莱学園の初恋!」
 マンスフィールド「マンスフィールド短編集」
 サラ・ウォーターズ「茨の城」
 貴志祐介「クリムゾンの迷宮」
 井上夢人「おかしな二人 岡嶋二人盛衰記」
 ブッツァーティ「タタール人の砂漠」
 米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」
 辻村深月「ぼくのメジャースプーン」

・好きなTVアニメ
 ボンバーマンジェッターズ
 無人惑星サヴァイヴ
 陰陽大戦記
 ゾイドジェネシス
 ゼーガペイン
 シムーン
 RED GARDEN
 BLUE DROP 〜天使達の戯曲〜
 true tears
 喰霊-零-
 ソ・ラ・ノ・ヲ・ト
 四畳半神話体系
 
 戦国コレクション

・好きな劇場アニメ
 ストレンヂア
 REDLINE

・好きな映画
 イル・ポスティーノ
 イノセント・ライフ
 蝶の舌
 マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ
 白い肌の異常な夜
 トム・ヤム・クン!
 ミリオンダラー・ベイビー
 トロピック・サンダー/史上最低の作戦
 ゴーストワールド
 ぼくらの七日間戦争
 ラヂオの時間
 ジョゼと虎と魚たち
 ラヴェンダーの咲く庭で
 



2月22日 晴

斉所さんがtwitter等で発表していた漫画『メートル』がまとまって、AmazonのKindleブックウォーカーにて電子書籍での配信が始まりました。最初の単発の4ページ漫画(原題:メートルを上げよ)が面白くて、その後の連載も楽しみに読んでいた作品です。今回、電子書籍で一冊にまとまって販売が始まったので購入し、あらためて読み直して感想を書いてみました。思いのほか長くなってしまいましたが、少々お付き合いいただいて、『メートル』という漫画に少しでも興味を持っていただければと思います。


『メートル』はふたりの女性の物語である。商業漫画家で連載も順調の黒髪メガネ女子「紫(ゆかり)」と、その友人であり同じように漫画を描きながらも、まだデビューできずにバイトをしている金髪ショート女子「キヨ」。(女子といっても、おそらくアラサーの)このふたりが居酒屋で乾杯し、酒を飲みながらお互いの漫画の話をしてメートルを上げているところから物語が始まる。(ちなみに『メートルを上げる』とは『酒を飲んで気炎をあげる』という意味)

紫のほうは腐っていた時期があったものの、現在の商業連載はおおむね順調で、それなりの苦労はありつつもまず成功と言っていい道を歩んでいる。いっぽうのキヨはなかなかデビューができずに、バイトをしながら同人誌を作り、即売会に出たり持ち込みに行ったりとする日々。もういい年なので親戚からは『育て方間違えたなぁ』と陰口を叩かれ、バイト先の若い同僚には『(夢を追うのに)タイムリミットとか決めてます?』と言われ、『ここは私の本当の居場所じゃない』というお定まりの呪文も効力を失い、日々じりじりと焦りながらもそれでも漫画に打ち込んでいる。やがてキヨは、即売会の出張編集部で彼女の漫画を評価してくれる編集に出会う。『勝ちましょう いっしょに』その言葉に、天から下がった蜘蛛の糸のように一縷の望みを賭けるキヨだが…。

ふたりの女性が主人公だが、物語はどちらかといえばこちら、キヨの視点で展開していく。いまだ何者でもないキヨは『まんが』という、すでに何度も何度も否定されて擦り切れそうな夢を、それでも唯一の拠り所にして生きている。既にプロとして活動し評価を受けている紫の漫画に友人として手厳しい感想を投げつけ、親の老けた寝顔に涙し、若い男に交際を申し込まれても『まんが』ゆえにうまく受け入れることができない。自分の漫画が本当に面白いのか、描く価値があるものなのかと煩悶し、『面白かったです』という何気ないたった一言に救われたりする日々。これが、本当に身につまされる。自分が漫画家(未満の頃も含めて)として体験したことが生々しく山のように盛り込まれていて、酒も飲んでいないのにゲロが出そうになる。失礼、汚かった。

純粋にエンターテイメントとしてひたすら面白い作品と、そうではないけれど、なんだか普段からモヤモヤとして、漠然と抱いていた煩雑でとらえどころのない感情を、物語という一箇の塊として端的に具体化してくれる作品とがあって、メートルはどちらかと言えば後者に属するのではないかと思う。だから読んだ側としては「そうそう、いつも思ってたけど、そういうことを言いたかったんだよ!」と叫ばずにいられない。「同じ同じ、自分もそういう経験があったんだよ!」「この感じ、わかるなぁ〜俺の時はさ…」と自身の身の上を語らずにはいられない。同じあたりをうろうろダラダラ走っていたと思ったのに、いつのまにかぶっちぎって先を行ってしまっている同業者。「私は今すぐ売れるものにしか興味がなくて、あなたは売れないので担当したくありません」と、こちらの人生に一ミリの責任も持たないくせに断言して呪いの言葉を投げつけてきた編集者。夢があって、道は遠く、毎日ひたすら頑張らなきゃいけないはずなのに、なぜか回り道をしてしまい、けっつまずいて、安い酒に逃げてしまうどうしようもない自分。わかるわかる!と自分の話をしたくなる。紫とキヨが酒を酌み交わす場に、横入りして混ぜてもらいたくなるのだ。彼女らに、話を聞いてもらいたくなるのだ。

で、そういう漫画家(志望者)特有の「あるある」が、同じような漫画家や、あるいは音楽などの創作者にのみしか伝わらないかというと、『メートル』はそうでもないと思うのだ。たぶん誰もが「普通の人間」などではないし、程度の大小はあれ横道に逸れてしまったり、今まさに逸れようとしていたり、あるいは過去に逸れた/逸れようとした経験があるのではないか。なんだかヘンなことをして人から自分から「何やってんの」「そんなこといいかげんやめなよ」と問われた経験があるのではないか。だからこそ、物語のエピローグで紫が、初対面(厳密には違うのだけれど)のキヨの親戚の少年・達也に告げる言葉が胸に刺さる。そう、それは他人に委ねてはいけないものなのだ。誰も、誰一人として、自分の人生の責任を、代わりに取ってくれたりはしないのだから。

…こう書くとかなりシリアスな内容で、読み手のハードルを無駄に上げてしまった感があるのだけれど、冒頭の試し読みを読めばわかるように『メートル』にはコミカルな要素もいっぱいあって、1話だいたい4ページでまとまっているので大変読みやすいし楽しいまんがです。この拙い文章で興味を持った方は、ぜひ一読いただければ、同じ読者として幸いに思います。


『メートル』Amazon Kindleブックウォーカー


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