2008年1月号より

「学研の科学」掲載

 


Q.子どもの歯はどうせ抜け替わるので、痛がってないなら治療しなくても良いと言われました。本当でしょうか? ということは、乳歯は虫歯になってもあまり心配いらないということですか?


A. これはたぶん、前歯のことを言ったのでしょう。前歯と奥歯では分けて考える必要があります。

 まず、奥歯について。乳歯の奥歯にはたくさんの役割がありますが、お子さんの将来ということを第一に考えた場合、最も重要な役割は、顎の発育を促すということになるでしょう。顎の発育が不充分ですと、歯並びが悪くなって虫歯や歯周病にかかりやすくなりますし、顎関節や全身にまで悪影響を及ぼすことがあります。

 6歳になると、乳歯列の1番奥に6歳臼歯(永久歯)が生えてきます。子どもの小さな顎に大きな永久歯が生えてくることになりますから、顎には大きな力が加わって押し広げられ、この力で顎が発育します。

 この時、手前の乳歯が虫歯で崩れていたりすると、大きな永久歯は楽々と生えてきてしまって顎には力がかからず、顎が大きくなる機会が奪われてしまいます。乳歯の奥歯に虫歯の穴が開いているような場合には、痛みがなくても、治療はきちんとしておくべきです。

 一方、前歯の場合は、事情が違います。乳歯の前歯の1番大切な役割は、永久歯を正しい場所に導くというものです。虫歯で形が崩れてしまっていても、神経が健全であれば、その役割は充分果たせます。奥歯と違って、形が崩れているからといって、顎が大きくならないということはありません。

 乳歯の神経はとてもデリケートで、虫歯を治療することで、神経が死んでしまうことがままあります。特に前歯はデリケートなので、たとえ虫歯があっても、痛みがなければ、虫歯の進行止めの薬を塗っておくだけで済ませる場合が多々あります。

 同じように虫歯があっても、奥歯は治療、前歯は進行止めの塗布というような違いがでてくるのです。



Q.6歳の男の子の母です。歯医者に行くと、奥から大人の歯が生えてきたので、虫歯予防のために溝を樹脂で埋めた方が良いと言われました。樹脂で埋めると、虫歯の心配はないのでしょうか?


A. 「シーラント」と呼ばれる予防法を勧められたのだと思います。シーラントとは、フッ素を放出する樹脂で奥歯の溝を埋めることで、虫歯の発生を防ごうというものです。

 生え始めから2〜3年以内は、歯の質がまだ弱く、虫歯になりやすいと言われています。特に最初に生えてくる永久歯の6歳臼歯は、溝が深くて複雑な形をしていることもあって、虫歯になってしまうことが多い歯です。シーラントは6歳臼歯の虫歯予防に効果的だと言われています。

 でも、6歳臼歯が虫歯になるのは、生えてきた時の口の中が虫歯になりやすい状態だからです。そういった観点から考えると、「6歳臼歯にはシーラントをすれば良い」というのは、あまりに短絡的とも言えます。虫歯になるような状態は、体にとっても良い状態ではありません。6歳といえば、子どもの成長にとってとても大切な時期ですから、もし虫歯ができるようなら、食生活をはじめ、生活全般を考え直してみる必要があるでしょう。虫歯ができないのなら、口の中の状態が良いと判断できます。シーラントをすることで、こうした「生活全般を見直す機会」を失うということは否めません。

 シーラントには、高い虫歯予防効果が確かにあります。とは言え、外れたり、ゆるんだりして、すき間から虫歯が発生することもまったくないとは言えません。

 また、シーラントで予防できるのは、歯の溝の部分だけです。歯と歯の間のむし歯の予防効果はありません。歯と歯の間から発生する虫歯は往々にして発見が遅れ、神経を取るような重症の虫歯に至る確立が高いので、「シーラントをしたから、何を食べても飲んでも、歯を磨かなくても大丈夫」などとは決して考えないでください。


              文:くろさわ歯科医院 院長 黒沢誠人