2007年6月号より

「学研の科学」掲載

 

. 子どもの歯のあちこちに黒いものがついています。健診では「虫歯でなく着色です」と言われたのですが、着色ってなんでしょうか。このままほうっておいて大丈夫でしょうか。

女の子ですし、できればとってあげたいのですが、歯磨きではとれません。どうしたらいいしょう。


. 歯の表面は、つるつるしているわけではなく、顕微鏡などで見ると、ごく細かい溝がたくさんあります。この溝にお茶やコーヒーのシブが沈着して、歯が黒くなったのを「着色」と呼びます。

 虫歯も黒いのですが、虫歯の場合は歯の中のほうまで黒くなってしまっていて、この部分は削りとらないといけません。着色の場合は表面についているだけなので、研磨剤で表面を研磨するとすぐにとれます。

 お茶やコーヒーを飲まない子なのに、歯のあちこちが黒いものがついているのでしたら、「黒色色素産生菌」の仕業と考えられます。「黒色色素産生菌」は、文字通り、黒い色素を出す細菌です。口の中にはたくさんの種類の細菌がいますが、その中にこの細菌の占める割合が多いと、歯の溝に黒い色素が沈着して、歯が黒くなってしまいます。虫歯を作る細菌ではないので、虫歯の心配はいりません。が、歯が黒くなって気になる場合は、歯科医院でとってもらったほうがよいでしょう。虫歯ではなく、着色ですから、歯を削ったりすることなく、すぐにとれます。安心して相談してみてください。

 お子さんが成長するのに伴って口の中の環境が変わると、この細菌も減ってきて、着色しなくなることがほとんどですから、それほど深刻に悩む必要はないかと思います。黒くなって気になるようでしたら、定期的に歯科医院でとってもらうことで、対処してください。いずれ、つかなくなると思います。



Q.歯科医院に行ったら、子どもなのに歯石がたまっている、と注意されました。歯磨きが足りないと言われたのですが、歯磨きはさせているつもりです。どうして歯石はたまるのでしょうか?


. あまり気にする必要はありません。子どもだって歯石はたまりますが、だからと言って、なにかしらの問題が起こることは、子どもの場合はありません。

 唾液中のカルシウムが歯の汚れに入り込んで固くなったものが歯石です。歯に汚れがついたままになっているから歯石がつくのですから、そういう意味では歯磨きが足りないという指摘も当たっています。

 ただ、歯石の付きやすさは個人差がとても大きく、唾液中のカルシウムの多い子どもは、歯石が付きやすいのです。特に下の前歯の裏側は唾液が出てくる場所なので、ちょっと汚れが残っているだけで、すぐに歯石がついてしまいます。唾液中のカルシウムが多いのですから、そういった子どもは虫歯になりにくく、逆に歯磨きがあまり必要ない子どもとも言えます。

 大人の場合は、歯石がたまっていることで歯周病菌が繁殖してしまい、重症の歯周病を引き起こすことがしばしばありますので、なるべく早くとってもらったほうが良いでしょう。しかし、子どもではそういうことも起こりません。子どもは歯周病菌に対する抵抗力がとても高いからです。そういった大人と子どもの事情の違いを取り違えているケースが多々あるようです。

 もし、下の前歯の裏側全体が歯石で埋まっているようだったり、口臭が気になるようでしたら、その時は歯石をとってもらいましょう。歯石は歯にこびりついているので、歯磨きではとれませんから、必ず歯科医院でとってもらってください。


              文:くろさわ歯科医院 院長 黒沢誠人