「うすき・ゆめみし」

(3)行橋・日豊本線

 

  行橋は近年高架駅に変身した。「へいちく」の路線は、その日豊線へ寄り添うかたちでホームにつけた。読書に夢中だったので、どの方向からつけたのか、地図感覚がはっきりしないまま地上へ降り立ったのが間違いのもとだった。連絡するL特急「にちりん9号」12:42発までは2時間弱ある。しばらく駅近辺散策で時間を潰そうと歩き出した。駅周辺は広く整地されていて、ちょっとイメージが新興都市の雰囲気。こんなものだったか?と違和感を覚えながらどんどん商店街へ入るべく健脚を進める。しかし、全く新しい住宅やらこぎれいなスロットホールやら、ドライブイン的な割烹やら、なじみやすい集中した商店街が見当らない。車の整備工場で、余りやる気のなさそうな妙齢スタイル抜群の女性の作業する姿などをながめつつ、かなりの距離を歩いてしまい、目的を達成しないまま引き返した。少し早かったけれど、途中ちょっとしゃれたドライブインへ入って昼食。迷った末に、結局、焼き魚(さけの切り身)とちゃわんむしなどがつく昼定食にグラスビール。お給仕はちょっと濃い目の若いモーニング娘風美女。満足して、駅へ戻る。

  高架駅行橋は、デザイン的にはまことにすっきりしていいけれど、高架駅の常だろうが駅舎などどこにもない感じであり、ターミナルとかいう存在感のある駅ではなく、単なるあっさりした「鉄輪バス・ストップ」である(どうでもわが直方駅の落ち着いたたたずまいに、私など軍配をあげたい)。その脚下のグリーンウインドウで行橋=臼杵乗車券、自由席特急券を買う。しめて¥4100なり。2番ホームへ出て「宮崎空港行き・にちりん9号」を待つ。定刻に私の思い込んでいたのとは反対方向からその赤いエクスプレスは滑り込んできた。行橋の目抜き市街が急に私の目に目新しいものとして飛び込んできた。先刻歩いたのとは反対側に賑やかに広がっていた。どうして、これまで気が付かなかったのだろう?そういえば、高架駅になってここへ降りたのは、これが初めてだった。

 

  外はまことに好い天気で、途中下車して(中津?別府?大分?)ぶらつきたい気分を押さえつつ「戦争の法」を読み進む。主人公の少年が住むS町の占領事情。町の有力者たちが、政治体制のドラスチックな変化と、異国の軍隊の進駐という日本の小説ばなれした状況にどんな反応を示すかという、実験小説風に展開していく。これは一種のサロン小説かもしれない。多数の人間たちの心理状態が様々に活写され、主人公の学校生活もドーデの「最後の授業」のパロディが織り込まれたり、そのうち次第にきなくさい戦争銃後小説の趣をなしてくる。調子に乗り出した。でも余り戦争らしい、血なまぐさいものが出てこない。ソ連兵相手の娼館はすでに出ているけれど、この作者には、さほどエロチックなものも期待できないようだ。14:33臼杵着。

 
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