錦眼鏡余話7:No266
はなぐろ 

いつの頃からだろうか。。。
一匹の猫が我が家の敷地で時間を
過ごしている。
それも、いつもいつもいるわけではない。
 
始めのうちは、
見つけると敷地の外へ追い出すようにしていた。
逃げるときは、
駐車場の入り口をひと跳びで越える。
からだは小さいが、なかなか敏捷な猫のようだ。
 

敷地の外へ出たら、それ以上逃げようはとしません。
そればかりか、後ろを振り向き、私を親しげに見つめるのだ。
何かを訴えるような素振りだ。
 
私には、「おじちゃん、お宅の猫になろうか」と
訴えかけている顔つきに見えるのだ。
 

妻とは、「ペットはジローとミーヤで充分だった」と
言う気持ちがあるので、
「絶対に餌をあげるのはやめよう」
と強く誓っている。
 


 
猫を、追い払う私の姿を見ていた
妻が
「あの猫は〇〇さん家(斜め前の家)の猫よ。
追っ払ったり、いじめたりしないでね」
と言われた。
 
その猫は、
鼻のまわりに目がぎゅっと集まっているだけでなく、
真っ黒な模様も鼻の1点に集まっている猫だ。
顔つきがどことなく愛嬌がある。
 

からだの毛は短く、薄汚れたベージュ色をしている。
腰のあたりは薄茶色だ。
 

インターネットで調べてみると、
シャムネコの混血のようだ。
私と妻はいつの間か、
その猫を「はなぐろ」という呼ぶようになった。
 

「はなぐろ」は、我が家で過ごす場所は決まっている。
 

一か所は、濡れ縁の下側である。
 

ここは、2階ベランダ下なので、強い雨や風がなければ
濡れる心配はないところだ。
それに、南側に面しているのであたたかいようだ。
また、
「はなぐろ」が休んでいる場所は
芝生が枯れてベッドのようになったいる。
前面に自転車もとめてあるので、
いじめに来る猫からも逃げやすいのだろうと思った。
(ここまで来れば安心と思い、後ろ足で痒いところを掻こうとするする「はなぐろ」)
 

二か所目は玄関である。
 

私が玄関から外へ出ると、
 
「はなぐろ」は決まって
駐車場のほうへとのそのそと行って
車の下へ潜りこむ。
 

人の出入りが頻繁な玄関に、何故
いるんだという疑問が湧いた。
考えてみた。
一つは、敷いてあるマットの上はコクリートより居心地がいいのだろうか。
時々、隣家の玄関のマットの上にもいるのを見かけた。
もう一つは、
「はなぐろ」は、我々が危害を加えない人間だと思っているのではないか。
 

三か所目は、台所ドア前のたたきの上。
家の裏手になるので、特別な用事がなければ、
我々は滅多に行かない場所である。
 

台風時や大雨の予報などがあると、
私の大事な仕事がある。
それは、
 
雨水の流れる場所を枯れ枝や枯葉が塞いでいなかを見まわる仕事だ。
そんなとき、
「はなぐろ」は決まって車庫のほうへと逃げる。
 
斜め前の家では、6〜7匹もの猫を飼っている。
「はなぐろ」も、その中の1匹である。
ところが、
「はなぐろ」は他の猫からいじめられているようだ。
 

先日、妻が
『夜10時を回った頃、我が家の敷地内で、
猫が喧嘩をしていたので、「はなぐろ」がやられているかも
しれないと思い、懐中電灯を持って外へ飛び出たけど、
暗くてよく分からなかったわ。
白っぽい猫が逃げていったから、あれが「はなぐろ」かなと
思ったけど。。。』
と話してくれた。
(悠然と自分の家へ帰っていく「はなぐろ」)
 
秋の長雨が続いたとき、妻とお茶を飲みながら、
『最近、濡れ縁の下に「はなぐろ」の姿が見えないけれど、
どこで過ごしているかな。。。』
と呟くと、妻も
「また、ひょっこり来るわよ」
と呟いた。
ふたりして、思わず笑ってしまった。