戻る

ベンゾジアゼピン離脱症候群と依存症(ベンゾジアゼピン撲滅運動)
 ベンゾジアゼピン(Benzodiazepine)といっても一般の方々には聞き慣れない言葉かもしれませんが、いわゆる精神安定剤や睡眠薬の大部分がこのベンゾジアゼピン系に含まれます。下図の「ベンゾジアゼピン骨格」を持った化学物質と言う事になりますが、このベンゾジアゼピンは依存性になりやすく最近の研究ではベンゾジアゼピンによってガンマアミノ酪酸(GABA)と呼ばれる神経伝達物質のスイッチが入り、ドーパミン濃度が上昇し、依存症を引き起こしているらしい事が分かっています(http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2694438/5315820)。

dcaec4e9c6933402cec9af47e4e860a3

 精神安定剤(抗不安薬、マイナートランキライザー)としてはエチゾラム(デパス、エチセダンなど『短時間作用型』)、クロチアゼパム(リーゼな『短時間作用型』)、アルプラゾラム(コンスタンソラナックス、メデポリンなど『中間型』)、ロラゼパム(ワイパックスやユーパンなど『中間型』)ブロバゼパム(レキソタンやセニラン『中間型』)、ジアゼパム(セルシンやホリゾンなど『長時間作用型』)、クロキサゾラム(セパゾンなど『長時間作用型』)、クロルジアゼポキシド(コントールやバランスなど『長時間作用型』)、ロフラゼプ酸エチル(メイラックスやメデタックスなど『超長時間作用型』)などなど良く売れるからかざっと挙げただけでもこれだけあり、さらには細かくジェネリックの名前まで挙げると切りがありません。さらに睡眠薬でも有名なハルシオンレンドルミンベンザリンユーロジンなどほとんどの睡眠薬はベンゾジアゼピン系です(例外はマイスリーとアモバンぐらいかな)。
 前置きが長くなりましたが、ベンゾジアゼピンの何が悪いのかというと、 兎に角癖になり易い。私がストレス対応能低下症と呼んでいる様な身体症状の患者さんやパニック障害、強迫性障害、うつ病などの患者に対して日本では内科医も心療内科医も精神科医も気軽にベンゾジアゼピンを処方します。短時間作用型のデパスなどは筋弛緩作用もあるため脳外科の筋緊張性頭痛や整形外科の肩凝りなんかにも使われている。めまいや耳鳴りの患者さんはは不眠などを伴い易く、外来で煩いくらいに自分の不安症状を留めどもなく訴えることから、手っ取り早やく良く効いて副作用の少ないデパスを毎食後にどうぞ、ということになります。私が良くやる様にストレス対応能低下症(SSRISNRI証など)、不安障害(パニック障害、強迫性障害、全般性不安障害)、身体表現性障害(身体化障害、心気症)、うつ病などに対してSSRI(ジェイゾロフト、パキシル、レクサプロなど)、SNRI(サインバルタ、トレドミンなど)、四環系(テトラミド、ルジオミールなど)、三環系(トリプタノールなど)などの抗鬱剤をいきなり投与するのではなく、不安やうつ症状をマスクするだけのベンゾジアゼピンを中心に投薬する訳です。抗鬱剤を投与する場合でも「不安症状」を軽減するためにベンゾジアゼピン系の精神安定剤を長期にわたって併用する。
 たしかに抗鬱剤にベンゾジアゼピンを併用すると鬱や不安症状はよりスムーズに軽減される(様に見える)でしょう。しかしより的確に効果のあるSSRISNRI、四環系、三環系抗鬱剤を初期の段階でより正しく選別する事を妨げてしまいます。そしてベンゾジアゼピン自体にはうつ病や不安障害を根治する力は全くありません。さらに悪い事にはベンゾジアゼピン系の安定剤や睡眠薬は1ヶ月間以上連続投与されると耐性(段々効かなくなって量が増える)が起こりやすく約三分の一の頻度で依存性が形成され、中止時に離脱症候を引き起こします。
 離脱症はアルコール中毒に似ており大量・長期間の投与は不快な離脱症候を発生させるリスクを高めます。離脱症候は通常量・短時間の投与でも発生し、不眠不安だけではなく時に統合失調症様の幻覚妄想が現れます。また離脱症候は不安障害やうつ病の固有の病状に似ているため、「病状の悪化」と誤診されることがあります。そして離脱症候の最悪の結果は自殺です。それゆえに、ベンゾジアゼピンによる治療は可能な限り短期間に止め(そもそも始めから使用しないのが一番です)、一旦始めてしまった場合は徐々に中断しなければなりません。
 一度ベンゾジアゼピン漬けになった患者さんの特徴は「誰々先生から貰っていた何々と言う薬を処方して下さい。私はあれが無いと眠れないんです。どうか処方して下さい。」「何々という薬は癖になりやすいから別の代わりの薬を出しておきましょう。」3日も経たないうちに電話してきたり再来して「やはり何々でないと私には合わないんです。どうか何々を出して下さい。」と言う事になります。
 ベンゾジアゼピン離脱症候群と依存症に関してはWikipediaに多数の引用文献を添えて詳説されておりますのでご参照下さい。精神医学に多少也とも関わる者として私が憂慮するのはこれだけ離脱症候群や依存症が問題である事が世界的に明白であるのに、日本の精神科医、心療内科医、内科医、脳外科医、整形外科医の大部分の医師たちがこの大問題を「問題」として認識すらしていない、と言う空恐ろしい現実にあります。自分がスタートさせた一粒のベンゾジアゼピンがその後のその患者の運命を大きく狂わせる可能性すら考えずに「気軽」にスタートしている、のが問題なのです。覚せい剤や麻薬は暴力団やその周辺組織が一部の民間人に売りさばき警察の処分の対象となります。ところがベンゾジアゼピンは全国に2030万人もいる医師により合法的に患者に投与されるのです。
 10年ほど前までは私自身もその「麻薬売人医師」の一人だったのですが、ベンゾジアゼピン離脱症候群と依存症に接する様になり悔い改めました。禁止できないならせめてベンゾジアゼピンは「覚せい剤、麻薬」と同等に扱いましょう。

文責 2012.5.7. 眞弓 久則

 その後、最近のBMJという欧米の医学雑誌にベンゾジアゼピン使用者は認知症が増えるというデータだ掲載されていますので表を掲載しておきます。原文を読みたい人は下記のリンクからどうぞ。
http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231

Pasted Graphic
文献:de Gage SB et al.Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study.BMJ 2012;345:e6231


戻る